第三十三話 あっさりとしゃべる
なんでこんなに機嫌悪いのかなぁ~?
私は隣りに座っているお兄ちゃんを見つめた。
イラついているのか、左手の人さし指でテーブルをトントンと叩いている。
その視線は反対側に座り、連都を抱っこしている日下部君に向けられていた。
もしかして連都が日下部君と仲が良いから焼きもち?
連都は子供用のメニューの写真を指さしながら、「くー兄は何する?俺、ハンバーグ!!」とさっきからずっと日下部君にかまいっぱなしだ。
一方かまわれている日下部君は、視線で私に助けを求めている。
それは連都のことじゃなく、お兄ちゃんのことだ。
私はそれに対し手を顔の前で合わせて、口パクでごめんと謝る。
「ねぇお兄ちゃん、お仕事はいいの?」
「昼休憩」
「そっか~。もしかして、みんなでお昼食べたいからここに連れてきたの?」
「違うだろ!!」
そうツッコミをいれたのは、お兄ちゃんでなく日下部君。
いや、うん。いくら私でもそれはないってわかってるよ。
でもだって、場所と時間的にそうなのかもしれないって可能性も捨てきれないんだもん。
私達がいるのは、カントリー調のカフェ。
表の道路に面した場所にあり、お兄ちゃんに「顔貸せ」と日下部君を近くにあったここに連れて去られてしまったため、私達も強制的に来ている。
「お前、ずいぶん連都に懐かれているな?」
あ~。やっぱりお兄ちゃん、焼きもち妬いてたんだ。
うん、それはわかるよ。だって連都ってば、日下部君ばっかり構うんだもん。
席だって一緒に座ろうって言ったのに、くー兄と座るって言うし。
「……はい。こいつ可愛いですね。俺、大抵子供に逃げられるんで」
それは日下部君の顔が強面だからかもしれない。
本人は子供好きで迷子の子とか見るとすぐに駆け寄るんだけど、「怖い」って泣かれてる。
最初何も情報がない状態だと、人って外見で情報を得るもんね。
「当たり前だろうが。連都は俺の息子だからな。そして、桜音は俺の妹だ」
「それ、日下部君知ってるよ。さっきちょっと説明したもん。ねぇ、それより何食べる?」
私はメニュー表を広げ、お兄ちゃんにも見やすいように私とお兄ちゃんの中間に置いた。
もしかしたら、お腹空いているから怒りやすくなっているのかもしれないと思ったのだ。
「私、Aランチのドリンクはアイスティーにする。みんなは?」
「桜音は少し黙ってなさい」
「え」
カフェに食事に来てるのになぜ!?
私はしぶしぶメニュー表を片付けた。
「どこの馬の骨かは知らないが、上手く連都を手なづけたな。その調子に桜音との距離も縮めようと企んでいるだろうが、俺の目が黒いうちはそうはさせない」
「……いや、俺は逢月の事別になんとも思ってないですって。それに、俺ちゃんと好きな相手いますし。ただ成り行きで連都共々面倒見ているだけで……」
「そんな事言って、桜音のこと好きなんだろう!!」
「それは無いですって」
「本当か?」
「マジっすよ」
しつこいよ、お兄ちゃん。
お兄ちゃんは数秒日下部君を見たかと思うと、今度は私に視線を移す。
「桜音はこいつの事どう思ってるんだ?」
「え?友達だよ。何?もしかして、私が日下部君を好きだと思ってるの?あるわけないじゃん」
「そうか~。じゃあ桜音がこいつの事好きとかこの男が狙っているとか、そんなんじゃないんだな。だよな~、涼からなんの報告もなかったしな」
「うん」
涼からの報告がよくわからないが。
「そっか~。兄ちゃん誤解してたみたいだ」
「も~、なんでそんな勘違いしたの?大体私が付き合ってるのは、日下部君じゃなくて海だもん」
「そうか、この男じゃなくて海か~。……――って海って誰だ!?」
いきなり立ち上がり叫びをあげたお兄ちゃんに、室内の視線が集まる。
あれ?私何かマズイ事言った?
お兄ちゃんに見降ろされ、きょとんとする私に、「空気を読め!!」という日下部君の言葉が覆いかぶさった。