第三十一話 無理でしょ
「なぁ、桜音。体、柔らかい方か?」
「え?堅い方……」
自慢じゃないが、堅い。
前屈で手が床にまったくつかないぐらい堅い。
「みくは柔らかいよ。べたってくっつくもん」
私はバスタオルとフェイスタオルを海へと渡すと、その隣にしゃがみこんだ。
海の周りにはTシャツや歯ブラシなどの他にジャージなど、さまざまなものが置かれていた。
これは明日から始まるバスケ部夏の合宿の荷物。
4泊5日での泊まり込みになるため、結構大荷物だ。
スポーツバックもいつものと違い、合宿用に使っている大きめのを今回は使用するらしい。
「じゃあ、無理か」
海はその大きいスポーツバックを見つめながら、ため息を吐く。
それは無理すれば、大人一人は入れるぐらいの大きさ。
でも、かなり体柔らかくないと無理そう。
そういえば、こういうのに入る芸人さんいたっけ。
「何が無理なの?」
「桜音がここに入るのが」
え!?入るって、まさかこのスポーツバックの中っ!?
そんな事、考えるまでもないでしょうが!!
「も~っ。無理に決まってるでしょ」
「冗談だよ。こっそり連れて行きたいのは山々だけどな」
そりゃあ、私だって一緒に居たいよ?
両思いになったの、ついこの間の事だし。
夏休みだもん、一緒に出かけたりもしたい。
でも、部活はしょうがない。
「四泊かぁ~」
「ちょっ、海っ!?」
急に後ろから抱きしめられ、裏返った声が出てしまう。
た、体温が上昇していく~っ!!
顔が赤くなっていくのは自分でもわかる。
元々免疫ない上に、まだ日が浅いためこういうのに慣れていない。
「にっ、荷造りしなきゃ」
「ん?後でするよ。今は、桜音」
――って、耳にキスしないで!!
なんか、お付き合いをしてから海のスキンシップが激しくなっていく気がする。
「桜音、こっち向いて?」
海の拘束が解け、私はその言葉のまま海の方向に体を向けた。
すると、頬に手が添えられ海の顔が近づいてくる。
え、ええっ!?
目をギュッと閉じると、やっぱりキスされた。
触れるだけのキス。
いろいろ経験のある海とは違い、それだけでも私の限界は超えてしまっている。
そのため、関係が進むのはかなりのスローテンポになるって事は明確なこと。
それが不安だ。
だって、海に面倒とか思われそうで――
「ほんと、可愛いな」
海は私の事をまた抱きしめると、ギュッとした。
可愛いって私が?思わず首を傾げた。
「四日も会えなくなるのか……」
「きっとすぐだよ。私も部活の合宿の時、あっという間に過ぎたもん」
「まさか、家庭部も合宿あるのか!?」
海は拘束を解くと、私の両肩に手を乗せ聞いてきた。
「え?無いよ。文化部だし。合宿は中学の時のやつ」
「……良かった。桜音も合宿だと、またすれ違いになってしまうかと思った」
「大丈夫だよ。中学の時、バスケ部で行った合宿の事だから」
私はまた荷造りの準備を始める。
早くおわして海とゆっくりしたい。
「桜音は、バスケ部だったのか~。以外だな、全く知らなかったよ。女子の試合応援に行ったりした時あったから、もしかして会ってるかもな。
何か録画したやつあるか?DVDとか。桜音のプレイしているの見たい」
「ん~。そういうDVDは無いよ。私、マネージャーだったもん。あ、でも会場では海と会ってるよ。だって、うちの学校と試合したから」
私は衣類を買ってきておいた圧縮出来るビニールを数枚取り出すと、半分を海に差し出す。
これって便利なんだよね。
荷物の面積かなり減るから、結構旅行行くときとか愛用している。
――って、海?
ビニールを海に差し出したんだけど、海は受け取ってくれない。
これにTシャツ入れて欲しいんだけど……
「ちょっと待て。まさか、男バスのマネージャーだったのか!?」
「あ、うん」
あれ?これって以外と知られてないの?
だから、男子バスケ部の人と仲良いんだけど。
涼が他校のメンバーと交流あったから、私も自然に面識があるようになっていった。そのためうちの学校の男子バスケ部の人達数人とも、
先輩後輩関係なくその中学の時から面識ある人がいる。
「桜音がマネージャーか。良いな……」
海は何かを考えているのか、ぼーっとしている。
どうしたんだろう?
何か考え事でもしているのかもしれないし、少し放っておこうっと。