第三十話 カレカノ
い、今キスしたのっ……!?
感覚の残る唇に、指を這わせる。
ファーストキスのシチュエーションについていろいろ勝手に想像したけど、こんなシチュエーションは全く想像していなかった。
相手が海なら場所なんてどこでもいい。
でも、いきなりすぎるよ~!!
「桜音。これ本当なのか?」
「え?」
未だ真っ白な思考の中、急速に現実の世界へと戻されていく。
海の手によって目の前に差し出されたのは、小さめの本のようなもの。
そこには『海へ お誕生日おめでとう。私も海の事が大好きです』とかかれていた。
これって、あのメッセージベアのメッセージカードじゃん!!
他の人見てないよね!?
キスされたかと思ったら、自分の告白カード……
急激に動き出した物事に、何もかもがついていけない。
「桜音、ここに書かれているのは本当なのか?それとも誰かの悪戯か何かなのか?」
「はぁ!?」
このメッセージ書くのに、すごく時間がかかった。
それはどう伝えていいかわからなかったし、こういう風なの書いた事ないから書くときすごく不安だった。
それなのに、まさかの悪戯扱いって酷い。
「もう海なんか知らないっ!!」
デリカシーなさすぎだよ。
私は海の隣りをすり抜け、エレベーターから降りる。
冗談じゃない。人が勇気出して書いたのに!!
こうなったら、みくに愚痴ってやるっ!!
そう思って携帯を取りだした瞬間、左腕を引っ張られ後方に倒れそうになってしまう。
「ごめん、桜音。本当にごめん。許してくれ」
耳元では、海のせっぱ詰まった声が聞こえて来る。
私が倒れ込んだのは、床ではなく海の腕の中だった。
どうやら、私は海に後ろから抱きしめられているらしい。
「酷いよ。悪戯とかって……」
「ごめん。信じられなかったんだ。まさか桜音が俺の事を好きだなんて」
「私が海の事好きなのかわかんないのに、キスしたの?」
「あぁ。このカード見たら、何も考えられなくなってつい。ごめんな。出来ればエレベーターとかじゃなく、ちゃんとした場所だったら良かったんだけど……」
「海とだから良いよ」
そう答えると海の腕の力が弱くなり、拘束がとれはじめる。
自由になった体を、私はゆっくりと海の方に向かせた。
するとそこには、顔を真っ赤にしながらはにかんだ海がいた。
「俺の彼女」
いつもと違い、ちょっと浮かれているのか声が少し高い。
「えっ?彼女?」
私の言葉に対し、海のはにかんだ笑顔が凍りつく。
「彼女になってくれないのか!?」
「なりたいよ。でもさ、その……」
付き合って下さいって言われてないもん。
私の言葉が小さくなったのでわかったのか、海は「あぁ」と何か理解したようだ。
ほら、やっぱり言葉にしてくれた方がはっきりするじゃない?
「逢月桜音さん」
「はっ、はい」
急にあらたまった言い方をされ、思わず姿勢を正す。
「大好きです。俺と付き合って下さい」
「はい。お、お願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
なんだか良く分からないけど、お互い礼儀正しくお辞儀をしてしまう。
顔を上げると目と目があってしまい、私達はつい思わず笑いあってしまった。