第二十五話 五分前行動ならぬ、一時間前行動
長いのでわけようとしたけど、分けれなかった…
今回ちょっと長めです。
「ねぇ、本当にここでやるの?」
私は案内された部屋を見て、思わず一緒に来た日下部君を見た。
今日は海の誕生日パーティー当日。
サプライズで海を驚かせるのに、一足先に私が驚かされてしまっている。
だって、まさかパーティー会場がホテルのパーティールームだなんて――
私が今いる部屋は、30人は余裕で入れるぐらいの広さ。
室内には、五人は座れる大きなソファが上座に置かれ、左右には花が生けられてある。その他に、端には数十個のイスや所々にクロスのかけられた丸いテーブルが数個設置されている。
日下部君の話ではこの後ここに、食事や飲み物が台車で運ばれてくるそうだ。
「他にどっか良いとこあったのかよ?なら早めに言えって」
「違うくて。ここホテルだよ!!しかも、タホナロイヤルホテル!!」
ここは俗に言う高級志向の人達が泊るホテルとして有名なタホナロイヤルホテル。
全国や海外にも展開している大きなホテルでランクもかなり高く、一部のホテル施設を除き、ほとんど会員制を用いている。
そのためまわりに何気なく飾られている、シャンデリアや絵画など調度品なんかもきっと値段がそうとうするはずだ。
「あ~。金の心配はすんな。パトロンがいるから」
「パ、パトロンっ!?」
「……お前、今変な風にとらえただろ」
え~と。実は、はい。
だって私の持ってるイメージそうなんだもん。
「――海の親父さんが払ってくれるんだよ」
「えっ。啓吾さんが?」
「あぁ。それより、お前着替えて来いよ」
「え。やっぱり正装じゃなきゃ駄目なの?」
そうだよね。こんなちゃんとした会場のパーティーだもん。
あ。でも私、海に正装してきてって言ってない。
それに私自体も着替え持ってきてないよ。
「いや、別に普段着で構わねぇ。だが、お前だけは別だ」
「なんで私だけ着替えなきゃならないの?」
「お前も主役みたいなもんだろ。おい、凛。こいつのき――……って、お前、まだ落ち込んでんのかよ?」
日下部君の視線の先には部屋の隅でしゃがみ込んでいる凛さんがいる。
どうしたんだろう?
「凛さんどうしたの?」
私もしゃがみ込んで凛さんと向かい合う。
「姫の……逢月さんの衣装に最初着物を用意してたんです。桜の姫ですものやっぱり着物でしょう。それなのに、私のせいで……」
「何かあったの?」
首を傾げて凛さんを見る。
すると、私と凛さんを影が覆った。
どうやら日下部君がこっちに来たようだ。
「こいつが張りきりすぎた上に妥協しなかったから、着物がキロ単位にまで及んだんだよ。さすがにお前には重すぎると思って却下したんだ。長時間だしな。そんなに落ち込むなら、別に重ね着なんてしなくてもよかったんじゃねぇのかよ」
「駄目ですわ!!桜の姫とい――」
日下部君のあきれた声に、凛さんが急に立ち上がり声を荒だてた時だった。
ノックと共に、扉が開けられたのは。
あれは……
「啓吾さんっ!!」
そこには、啓吾さん――海のお父さんが優しく微笑んでこちらを見ている。
私はその人の姿を見ると、駆け寄った。
「今日は海のためにわざわざありがとう、桜音ちゃん。それに、日下部くんに凛ちゃん」
「まぁ。小父さま。わざわざご足労頂いて申し訳ありません」
「仕事でこっちまで来たから、立ち寄ってみたんだ。本来ならゆっくりとお礼を言いたいんだけど、ごめんね緊急事態なんだ」
「どうかされたのですか?」
急に日下部君と凛さんの顔が引き締まる。
「……海がもう来てるんだ」
この啓吾さんの言葉に、私達三人は動揺した。
だって――
「まだ待ち合わせ時間の一時間前ですよ?」
日下部君は携帯を出して、ディスプレイを見つめている。
「おい、逢月。お前ちゃんと11時って言ったんだろうな?」
「言ったよ!!11時にロビーって」
昨日、ちゃんと海に言ったもん。
海もちゃんと「わかった。楽しみにしてる」って言ったし。
「桜音ちゃんの言い間違えとかじゃないんだ。どうやら桜音ちゃんに祝ってもらうのが、かなり嬉しいらしく待ち切れなかったみたい」
そう啓吾さんは苦笑いで答えた。
「そうだとしても早すぎだろ……一時間も前に待って何してんだよ……」
「困りましたわね。ロビーから早々に移動して頂かないと。他の方達がいらっしゃっては、バレてしまいますわ」
たしかに。知り合いと1・2人と会っても偶然で片付けられるけど、何かおかしい事に何人もだったら気づくよね。
「ごめんね。海を連れ出したいんだけど、僕も仕事があってちょっと無理そうなんだ。何気なく何処かで時間まで潰すようにって言ったんだけど、もしかしたら桜音ちゃんがもしかしたら来るかもしれないって」
「来るわけねぇだろ。一時間前だぞ?あいつはまったく……」
日下部君が頭を抱え込んでしまう。
「あのね、もう私下行こうか?そんで、海と2階のテラスでお茶して時間まで待ってるよ」
「そうですわね。それが一番得策かもしれません。ですが、姫がこんな時間にいたら不審がりませんか?」
そう言われてみれば、そうかも。
「別にいいんじゃねぇか。待ち切れなかったみたいな事言えば。今のあいつなら、なんでも誤魔化せる気がする。一応何かバレそうになったら、逢月。お前が色仕掛けでもなんでもして誤魔化せ」
「えぇっ!?仕掛ける色なんてないよ!!」
「俺にはまったくわからないが、海には通じるから問題ない。とにかく、行け」
「う、うん」
プレゼントとかどうしよう。
でも後でここ来るよね。バックだけ持っていこうかな。
私はバックを掴むと、扉を開けて海の元へと向かった。