第二十一話 甘い囁き
静まりかえったリビングの中、テレビのバラエティー番組だけが流れている。
それは11時からあるやつで、私が毎週楽しみにしているやつだ。
通常ならソファに座り見ているはずなんだが、見ることができない。
なぜなら――
「だめっ!!」
「なんで?」
「だめなものはだめなのっ!!」
そう言って逃げようと思っても、後方を壁、前方を海、そしておまけに左右を海の両手によって行く手が阻まれてしまって逃げられない。
も~。こうなる事がわかってたなら、日下部くんとみくに泊って貰ったのにっ!!
「だってあれは事故チューだもん」
「あぁ。それはわかってる。でも、触れたんだろ?」
いや、触れた事は触れたけど。
――って、唇指でなぞらないで!!
私は海との攻防戦を繰り広げているため、テレビを見る事が出来ない。
あれはキスじゃないから消毒なんて必要ないのに、海が「消毒する」って言って聞かないのだ。
「俺じゃ駄目か?」
その問いに私は首を振る。
駄目じゃない。
だって私は海の事が好き。海とならキスしたいって思う。
でも最初が事故チューで、次が消毒なんて嫌だもん。
だから今度はちゃんとキスしたい。
「あのね、海がダメとかじゃなくてちゃんとしたいの」
「ちゃんと?」
「うん。最初が事故チューで次は消毒なんて嫌なの。だからね、ちゃんと海と普通にキスしたいの――……って、海聞いてる?」
海の様子がおかしい事に首を傾げ海を見つめる。
すると海は口元に手を当てて顔を真っ赤にさせていた。
海の視線の先には、私がいるけどたぶん私の事を見てないと思う。
なぜなら、海の目の前で手を振っても何の反応もしないから。
どうしようか考えてると、ふいに携帯が鳴った。
この着うたは海の……
それは、海が好きな海外のアーティストの曲だった。
「ねぇ、海。携帯鳴ってるよ」
服を引っ張りながら言うけど、何の反応もしてくれない。
も~っ。緊急だったらどうするのよ。
私は海の元を離れ、テーブルの上にある海の携帯を取る。
するとディスプレイには、『白石彩』と映し出されていた。
これって、海と公園で腕組んでいた子だ……
――そういえば私、まだ海とこの女の人の関係聞いてない。
ファーストキス騒動のせいで、私はまだ海とこの女の人との関係について聞いてなかった。
手の中の携帯はまだ止まず、今も私の手の中で鳴り響いている。
電話に勝手に出る訳に行かないのはわかっているけど、気になってしまう。
「桜音!!それは俺とキスしていいって言う意味なのか!?」
え?
ぼーっと携帯のイルミネーションを見ていると、海の叫ぶような声が聞こえてきたので振りかえる。
すると海が左右を見回して私を探していた。
「あれ……?桜音がいない……」
後方にいるから、死角に入っていて見えてないらしい。
「こっちにいるよ。あのね、白石彩さんから電話」
私は海の傍に行き、携帯を差し出す。
すると海はその名前を聞くと、眉を顰めた。
海は私から携帯を受け取ると、携帯を切ったのか曲が止む。
そして携帯をソファに放り投げた。
「でないの?」
「今はそんな事より、さっきの事だ。桜音。あれは、俺とならキスしてもいいって事なのか!?」
その問いの返事は決まっている。
私はコクンと首を縦に動かした。
「海じゃなきゃいや……」
いまちょっと顔見られたくない。絶対ゆでダコ状態のはずだ。
私はそれを隠すために海にギュッとしがみ付く。
すると、私の体に海の腕が回され抱きしめられる。
そして海は耳元で囁やいた。
それは甘さを持った言葉。
「――桜音。好きだ」