第十八話 そのメールは
うわ~。カラフルなテディベアだ~。
ゆったりとしたカントリー調のBGMを聞きながら、私は目の前のウッドタイプの棚に飾られているものに目が釘付けになっていた。
それはレッド、ブルー、イエロー、ホワイト、グリーンの五色のテディベア。
それぞれのテディベアの首にはリボンが巻かれ、胸の前に抱えるようにして本を持っている。
このお店オリジナルかなぁ?
私はそっと、そのテディベアに手を伸ばす。
ここは、aliceっていう雑貨屋さん。
駅からかなり歩くんだけど、品ぞろえが多いためか店内には結構人が多い。
今日は海の誕生日のプレゼントをみくと買いに来たついでに、何か良いメッセージカードがないかな?って思ってここに覗きに来たのだ。
「メッセージベアにすんの?」
「え?メッセージベア?」
首を傾げ隣りに居たみくを見つめる。
みくはボヘミアンタイプの白チュニックに、茶色のショートパンツという格好をしていた。
「知らない?この付属の本にメッセージが書き込めるようになってんのよ」
みくはそう言うと、テディベアの持っていた本を抜き取ると私に見せる。
すると本だと思っていたそれは、メッセージカードのようなものになっていた。
へ~。一見すると本なんだけど、そのメッセージを書く所以外開けないようになってるんだ。
「……まぁ。あんたの場合、赤だけどね」
「え?なんで?」
「これにはそれぞれテーマがあんのよ。たとえば、友情ならこの緑。お腹を押すと……――」
みくがクマのお腹を押すと、「みんな仲良し―。みんな好き―」と機械的な子供の声が聞こえてきた。
どうやらこのテディベアはテーマごとの何かをしゃべるみたい。
「赤は恋愛。『好き好き、大好きー』って言うらしいよ。いいじゃん、これ在原に。ちょうど、メッセージカード買いに来たんだしさ~」
たしかにメッセージカードを買いに来たよ?
でも、これを渡したら、私の気持ち気づかれちゃうじゃんか!!
「ほら、あんたはこっち」
「あ」
みくは私が持っていたグリーンのテディベアと棚にあったレッドのテディベアを交換してしまった。
「もうっ、みく!!」
「いいじゃん。桜音が告れないなら、このクマにしてもらいなよ?ほら、タグにも『キミの想いをボクが代わりに届けるよ』って書いてあるんだし」
テディベアに着いていたちょっと大きめのタグを私に向ける。
するとたしかにそこには、『キミの想いをボクが代わりに届けるよ』とクマのイラスト付きで書かれていた。
告るなんて私には無理だもん……
私は棚にテディベアを置くと、まだ何か言っているみくを置いて、メッセージカードのコーナーへと向かおうと足を踏み出す。
その時だった。
私の携帯が鳴りだしたのは。
「やばっ」
この着うたはメールだからすぐに切れると思うけど、店内には他のお客さんもいるから迷惑になっちゃう。
急いでカバンから出してキーを押し、大ニュースというタイトルがつけられたメールを開いた。
「……え」
時すでに遅し。
後悔しても仕方がないのはわかっている。
でも――
送付者は友達からで、『大ニュースだよ。なんとあの王子様に、彼女がいるらしいよ!!さっき西公園で見つけて激写しちゃった』という文章だった。
何これ……
友達は私が海の事を好きな事を知らない。
だからたぶん、噂話というか、ゴシップ感覚で送ってきたんだと思う。
震える手で添付ファイルも開くと、そこには腕を組み微笑んでいるカップルの画像が出てきた。
それは海と知らない綺麗な女の人の姿だった。