合鍵 バレンタイン企画 インパクトで勝負(後編)
「――で、桜音。俺、その……そろそろ欲しいんだが……」
「うん。ちゃんとあるよ。はい」
私はブラウンの包装紙に、ゴールドのリボンで綺麗にラッピングされている物を海に渡す。
すると海は「ありがとう」と言いながらそれを大事そうに受け取ると、目をキラキラと輝かせながらそれを見つめた。
よかった~。すごく喜んでくれているみたい。
「あ、そうだ。あのね、海ってメイドさんの格好が好きなの?それとも、ナース服とかなの?」
私のその言葉に、海は生チョコを口まで持っていったまま動きを止める。
あ、また固まっちゃった。
やっぱこうい趣味って、人に知られたくないものだったのかも。
「……桜音。いつ俺がそんな事を言った?」
「え?違うの!?だってそう聞いたよ」
「佐々木か。佐々木だろ!!こういうこと言うのは、あいつしかいない!!」
海が珍しく声を荒げて叫んだ。
すごい、海。よくわかったね。
「ほんとにあいつは、また桜音をからかって。いいか、桜音。
俺は別にコスプレとか興味ない。ただ桜音のは、ありだって思ったけど」
「そうなの?興味ないのなら、着替え……――」
「それはダメだ。まだ着替えるな」
そう言った海の目が血走っているように見えるのは、気のせいだろうか?
汚すと悪いし、この格好恥ずかしいから着替えたいんだけどな~。
「まだ良く見てないし、それに――」
「それに?」
首を傾げ海を見上げると、口角の上がった海と目があった。
あ。なんだろう。
これ、逃げた方がいいような気がする。
すぐさま逃げるため海の膝から降りようとしたんだけど、読まれていたらしく、腰に海の腕が巻きつけられ降りれない。
「桜音。メイドの仕事ってなんだ?」
メイドさんのお仕事って、紅茶持ってきたりするやつじゃないの?
うちにメイドさんいたことないから、ドラマとかの知識しかないからよくわかんないけど。
「ご主人様にお仕えするのが仕事だよな?」
「ん~、まぁそうだと思うけど……」
「そうだよな。なら、桜音。今の桜音の格好は何?」
「え、メイドさん」
それ以外何に見えるんだろう?
「良く出来ました」
海に頭を撫でられるけど、なんかいつもと違って落ち着かない。
むしろ、ちょっとした恐怖を感じる。
「しかも、今日はバレンタイン。ここに、桜音に貰ったチョコがあります。はい、桜音」
「ん」
「食べちゃ駄目だぞ」と言われ、唇にチョコを咥えさせられてしまった。
「桜音がメイドさんなら、ご主人様は俺だよな」
待って!!おかしいでしょ!?
私、メイドの格好してるけど本物のメイドさんじゃないよ!?
しゃべれないので、首を激しく横に振る。
「可愛いメイドさん。ご主人様にチョコを食べさせて」
まさか――
その予想通り、海は何の躊躇いもなく私の咥えていたチョコを食べた。
しかも、唇についたチョコなめられちゃったし。
「~~っ!?」
「うん。旨い」
いや、待って!!普通に食べてよっ!!
「せっかく桜音がそんな可愛い恰好してくれてるんだから、一緒に楽しまないとな。
桜音手作りチョコまだいっぱいあるし」
血の気の引く私とは違い、晴れ晴れとした海の笑顔。
生チョコ八個作ったから、あと七個。
これをあと七回?無理。無理すぎる。
海とは付き合ってるけど、いつまでたっても慣れない私にはハードルが高い。
そんな追い込まれた私に、良い案が浮かんだ。
そうだ。チョコ、全部食べちゃえばいいんだ。
すぐさま行動に移し、ものすごい勢いでチョコを全部平らげて問題解決!!
……なんて都合良くなるわけもなく、数分後「このままチョコを食べさせればよかった」
って思うぐらいの目にあってしまった。
これでバレンタイン企画は終了です。
本編とブログの番外編は今書いてる途中なので、
これからもお付き合いして下さるとうれしいです。
ではでは、稚拙な文でしたが読んで下さった方ありがとうございました。