合鍵バレンタイン企画 インパクトで勝負(中編)
あの、せめて「なんて格好してるんだ!?」とかでもいいから、何か言葉を下さい。
じゃないと、この静寂に耐え切れないんです――
隣りに座っている海を見ながら、私はそっと溜息を吐く。
海は斜めにソファに座り、隣りにいる私の事を見ている。
何処見てんだろう?
その瞳はどこか遠い所を見ているようだ。
今日はバレンタイン当日。
ゆかりちゃんに貰った衣装を着て、みんなと違うチョコで差をつけようとしたんだけど……
私が視界に入ったと思ったら、海がこうなってしまった。
もしかして、引いちゃっているのかもしれない。
「海~、海ってば!!」
ダメだ。揺らしても名前を呼んでも何の反応もしてくれないよ。
う~ん、こうなったらみくから聞いた対処方法で。
実はこの間もしかして海がフリーズするかもしれないって聞いていたのだ。
そしてその時、ついでに対処方法も聞いておいた。
「海。起きないと、一週間キス禁止命令出すよ?」
「はぁ!?」
ついさっきまで固まってたのが嘘のように、海は体を大きく動かした。
おぉっ、さすがみく。
「キス禁止命令!?しかも一週間もだと!?まるで拷問じゃないか!!
そんなの絶対に嫌だ。どうしてだ!?桜音」
両肩を海に掴まれ、激しく揺らされる。
拷問ってそんな大げさな。
海にとっては重大な事なのか、ものすごく真剣な顔をしていた。
「ねぇ、海。冗談だから、少し落ち着いて。ねっ?」
肩にかかっている海の手にそっと触れ、なんとか静まるように促す。
「本当か?」
「うん」
「……桜音。あんまり俺をいじめないでくれ」
海は私を自分の膝の上にのせ、抱きしめるとほっと息を吐いた。
「それで、どうしたんだ?この格好。幻覚かと思って、しばらく動けなかったぞ?」
「引いてたんじゃなくて?」
「引くわけ無いだろ。こんな可愛いのに」
そう言って海は、ちゅと音をたてて頬にキスをする。
も~。
思わずその場所を手で押さえたんだけど、その手を掴まれ今度はその指先にキスをされてしまった。
……たまに思うんだけど、海ってキス魔?
「しかし良く出来てるよな。衣装もだが、この猫耳。本当に生えてるように見えるぞ」
「すごいよね~。これ、ゆかりちゃんが作ったの。海、いっぱいチョコ貰うでしょ?
だから、インパクトに残るチョコを贈りたいって言ってたの。
そしたら、ゆかりちゃんがこれを着てチョコあげたら?って」
「……たしかに、インパクトは残るな。でもな、桜音。
俺は桜音からのチョコ以外いらない。だからの全部、断ってるんだ」
「えぇっ!?」
「机の上にあるものやロッカーに勝手に置かれた物は全部人にあげてるんだが、知らなかったのか?」
知らなかった……
も~、誰か教えてよ!!そしたら、この恰好せずにすんだのに。