合鍵 バレンタイン企画 インパクトで勝負(前編)
なんとか、バレンタインギリギリ間に合った~。
蒼依から、いつも読んでくれている方にお礼小説です。
付き合ってる設定なので、未来編。
「サイズどう?きつくない?」
「うん、丁度いいよ」
「良かった~」
私の返事に隣りに立っていた、制服にグレーのカーディガンを羽織っている女の子は、ほっと胸をなで下ろした。
少し脱色したセミショートの髪に、トレードマークの赤い太めのフレーム眼鏡。
彼女は、クラスメイトの日村ゆかりちゃん。
趣味が洋服を作る事らしく、部活も被服部に所属してるの。
「被服部って、ほんといろいろな衣装作ってるよね」
私は感心しながら、被服室の中央にある大きい鏡を覗く。
するとそこに映っているのは自分の姿は、白いフリルのブラウスに黒いミニワンピース、それに白いエプロンという格好。
ワンピースの裾やニーハイにはフリルが飾り付けられていて甘めだ。
メイド服初めて着ちゃった。
この服はゆかりちゃんが製作したもので、試着を頼まれたの。
すっごく着心地いいし、安っぽく見えない。
「被服部って人数少ないけどすっごく個性的な子ばっかでさ、イベントでコスプレする子からデザイナー志望の子までいろんな人が所属してんの。だから、結構いろんなの作ってるんだ~」
ゆかりちゃんはそう言いながら、紙袋をあさり始める。
そして何か白いふわふわしたものを取り出すと、私にイスに座る様に促した。
「ね~、何それ?」
「ん?ちょっと待ってね。すぐわかるから」
髪を梳かれたかなって思ったら、何かクリップでも止めているようなパチンというような音が聞こえてきた。
もしかして、何かヘアアクセでもつけてるのかな?
なんてぼんやり考えてると、「桜音~」という声と一緒に被服室のドアが開かれた。
――あ、みくだ。
一瞬こっちを見て動きを止めたみくは、やがて「ちょっと、何それ!!可愛いんだけど!!」と言いながら、私達の方へと駆け寄ってくる。
「ゆかりちゃんが作ったの」
「すっげぇ。この猫耳本物みたい。ふわふわして可愛いし!!」
……猫耳?
ゆっくりと手を頭上に持っていき、何かあるか手で確かめると、たしかにふわふわしたものに触れる事が出来た。
ちょっと!!なんで猫耳!?
手鏡を取り出し、見てみると私には猫耳が着けられていた。
しかも、生えてるみたいに違和感無いし!!
「でしょ。桜音ちゃんに似合うって思って徹夜して作ったの。
あ、でも桜音ちゃんウサギって感じもするよね」
「あ~、わかるわかる。なんか、桜音って小動物って感じするもん」
いや、二人とも少し冷静になって考えてよ。
メイド服に猫耳だよ?
こういうのは、それこそ似合う人を選ぶと思うけど。
「これなら、間違いなくどのチョコよりもインパクト大でしょ」
「もしかしてこの衣装って……――」
「うん、そう。桜音ちゃん、バレンタインのことですごく悩んでたでしょ?だからこれなら他のチョコなんて記憶にも残らないぐらい思い出に残るかなって思ったんだ。それあげるから、着てね」
そっち!?そっちの方向にいっちゃったの!?
今度の日曜はバレンタインデー。
実はそのバレンタインが私の頭を悩ませているのだ。
この間日下部君とバレンタインの話になった時に、海が毎年すごい数のチョコを貰うって話を聞いてしまった。
学校だけじゃなく、実家にも送られてくるって一体どんな数なの……
そんな話を聞いてしまい、普通の手作りチョコじゃ太刀打ちできないと思ったのだ。
だから、「インパクトのあるチョコって何?」って、みくやゆかりちゃん達に聞いた事があった。
でも、さすがにこれは……
「あのね、気持ちは嬉しいけど……無理じゃないかな……」
「なんで?似合ってるよ」
「いや、無理でしょ!?これで海の前に出るんだよ?」
可愛い子ならありかもしれないけど。
「え~、逢月さんなら大丈夫だよ。在原くんも喜んでくれると思うけどな~」
「えっ?海ってこういうの好きなの?」
「ん~こういうの好きっていうか、在原くんは逢月さんが……――」
ゆかりちゃんの言葉を遮るように、みくの囁きが聞こえてきた。
「桜音知らなかったの?あいつ、こういうコスプレとか大好きなんだよ。だから、桜音も時々着てあげなきゃ。そしたら、桜音の事もっと好きになるとおもうんだけどな~」
戸惑う私に囁く悪魔の囁き。
その囁きは数分続き、結局私はその衣装を貰って帰った。
猫耳付きで。