第五話 それぞれの想い
「今、みくが来ますから」
千里ちゃんは携帯をブレザーにしまい込むと、私の隣の腰を落とす。
私はまた朝居た中庭に戻ってきていた。
少し落ち着くまで、休もうという千里ちゃんの言葉に甘えたのだ。
ベンチに座り空を見上げと、雲がゆっくり流れている。
なんだか、朝からいろいろあり過ぎ。
「当分一人では行動しないで下さいね」
「ごめんね。迷惑かけて」
「そんな事ありませんよ」
どうやら教室に来なかった私を心配して、涼とみくと一緒に探してくれていたらしい。
「今年は、千里ちゃんと同じクラスなんだね」
「そうです。涼もみくも一緒ですよ」
「やった〜」
良かった。知らない人ばかりだったらどうしようって思ってたんだ。
千里ちゃんとは、みくを通じての友達だ。
みくの幼馴染が千里ちゃんだったのだ。
最初見たときは、綺麗な女の子だと思ったんだよね。
「僕も一緒で嬉しいですか……?」
「うん。嬉しいよ」
そう言ったら千里ちゃんは、はにかんだ笑顔を見せてくれた。
千里ちゃん去年は違うクラスだったから、同じクラスになったのは嬉しい。
「桜音さん。在原海の事をどう思いますか?」
急に真顔になった千里ちゃんに、私は戸惑った。
どうしてその質問が出てきたのかその意図がわからない。
どうって、どういう意味だろう……?
大変そうとか?
「桜音!!」
何と答えたらよいか分からずにいると、大声で名前を呼ばれた。
声の方向を見ると、そこには息を切らせた女の子が立っている。
綺麗に巻かれた肩まである髪に、ばっちりのアイメイク、短いスカートからは小麦色の細い足が見える。
彼女は、佐々木みく(ささきみく)。
去年同じクラスになり、部活も一緒だったため仲良くなったのだ。
脇腹に手を当てて、苦しそうに肩を上下に動かしている。
「みく」
「よかった……無事で」
みくは私に近づいてくると、私をぎゅっと抱きしめた。
「変な連中が桜音のことを呼びに教室まで来たんだよ。桜音、なかなか来ねぇし。もしかしたら、何かあったんじゃないかと思ったら案の定この騒ぎ」
「大丈夫。千里ちゃんが来てくれて助けてくれたの」
そう言ったら、みくの顔が一瞬泣きそうになった。
みく……?
「さっ、早く教室に戻ろう。千里も早く」
手を引引っ張られ、連れて行かれる。
なんだか今日は、引っ張られてばかりだ。




