第十二話 何気に酷くない?
急にひっぱられてしまい、私は案の定床に倒れこんでしまった。
愛海さんは私がバランスを崩したのがわかると、とっさに手を離したため無事だ。
痛い……
頬を床にぶつけて痛いし、何より足首がじんじんとする。
あ……もしかして足捻っちゃったかも……――
右足をさすりながら、起き上がろうとすると「大丈夫か?」と日下部君が手を差し伸べてくれた。
「ありがとう」
お礼を言って日下部君の手をとり、起き上がろうとする。
だが、普通に立とうとしてしまったため、右足に力が入ってしまった。
やばっ。
そのため右足に激痛が走り、ふら付いてしまう。
また床と衝突!?と思ったけど、咄嗟に聖が支えてくれたので倒れずにすんだ。
「まさか足捻ったとか言わないでよ?」
「えっと……その……」
聖に対して私は曖昧に笑う。その間も足の痛みは続いている。
どうしよう……もしかして捻挫かもしれない。
「ちょっと足見せてみろ」
しゃがみ込んだ日下部君は右足を触っている。
もしかして、触診をしてるのかな?
「日下部君、捻挫とか詳しいの?」
「あ~、ちょっとな」
へ~、何か運動とかしてたのかも。
この時の私はあまり触れなかった。
もう少し触れていれば、この時私のファーストキスの相手がわかったのに。
「骨は折れてないが、一応病院行った方がいいな」
日下部君は立ちあがるとそう私にそう告げる。
病院か。タクシー呼ばなきゃ。何番だっけ?
そんな事を考えていると聖が、
「なら、次僕移動だから乗せて行くよ。鈴木さん喫煙室いるから、呼んでくる」
と言ってくれた。
マネージャーの鈴木さんを呼びに行こうと、聖はドアの方向に向かって歩き出す。
でも、その足が愛海さんの言葉によって止まってしまう。
「残念。足捻ったのなら、撮影は中止ね」
「愛海さ、他に言う事ないの?」
聖はかなりご立腹なのか、両腕を組んで愛海さんを睨んでいる。
その声のトーンはかなり低く、威圧感がすごい。
「わざとじゃないにしろ、この子怪我したかもしれないんだよ?君の下らない嫉妬のせいで」
「――っ」
端正な愛海さんの顔が歪む。
「正直、僕にもこの子の良さなんてさっぱりわからない。だってあまりにも……――」
聖は私の方を見ると、ため息を吐く。
あまりに何!?まぁ、大体予想はつくけど。どうせ普通って言いたいんでしょ?
ほんと帰りたい。なんで私、今日ボロボロ言われなきゃいけないの!?
「この子はずば抜けて可愛いわけじゃないし、特別頭がいいわけじゃない。
それにさしあたって、これだというものもない」
「ちょっと待って!!聖、私の事嫌いなの!?」
たしかにこれと言って得意だって言う事はない。
頭も良くも悪くもない中だし、顔もスタイルも普通。
本当の事かもしれないけど、さっきから酷くない!?
「え?別に普通だけど。なに?好きだって言ってほしいの?」
いや、そう言う事じゃなくて……
真顔で言う聖に、私は言葉を失う。
「だから愛海が気に食わないのもわかるよ。だって海とはあまりに釣り合わなさすぎる。
でもさ、愛海だってもうわかってるんでしょ?海が本気な事。わからないわけないよね?
あの海がこの子のためにモデルのバイトしてるぐらいだから」
え?海って私の為にバイトしてるの?
とっさにそう聞き返そうとしたけど、雰囲気的に出来なく口を閉じる。
「だから君が何を言おうが何をしようが海の気持ちは変わらない。
この子の格好より、嫉妬でやつあたりする君の方がよっぽどみっともないよ」
「じゃあ、海はこの女の何処が好きなのよ!?」
――え?
ボロボロ言われテンションが下がりまくった私だったけど、その言葉によって浮上する。
やっぱり海って私の事好きでいてくれるの?思い違いじゃなくて?
「ねぇねぇ、海って……――」
隣にいる日下部君の服を引っ張る。
日下部君なら、海の好きな人わかるかも。
でも反応がない。
あれ?どうしたんだろう?
日下部君を見ると、目を大きく見開いたまま一点を見つめている。
それに気づいた聖たちもその視線を追う。
あ。あれは――
「愛海、ちょうどいいじゃんか。この子のどこがいいのか、本人に聞いてみれば?」