第十話 本人の知らぬ間に進行中。
やっぱこれってうぬぼれなのかな?
ここ最近考えている事がある。
もしかしたら、海が私の事を好きなんじゃないかって。
だって、普通好きな人としかキスしないよね?
海、私としかキスしないって言ってたし。
でも……――
海は高嶺の花。
だって世が世なら王子様と平民娘だよ?
あきらかに不釣り合いだもん。
でも、海のあの発言――
あ~っ。も~、頭の中こんがらがる!!
……やっぱみくに相談しよう。
きっと驚かれると思うけど。
私はみくに海の事が好きって言ってない。
だってみくって海の事嫌いなのか、すぐつっかかってくるんだもん……
「逢月桜音!!」
「うわっ」
突然耳元で怒鳴られ、思わず両手で耳を塞ぐ。
その声の主によって急速に私は現実世界へと戻されてしまった。
――あ、やばっ。私、たしか今……!!
声の主が誰かわかった瞬間、サーっと血の気が引いていくのを感じだ。
恐る恐るその人の気配がする方向に目を向ける。
すると案の定、眉間に皺をよせこっちを睨んでいる日下部君と目があった。
こっ、怖っ。
日下部君の後ろにはレフ板とライトが見え、その手にはカメラが握られている。
「お前、今何してるかわかってるよな?」
「さ、撮影中です……」
私は日下部君に頼まれて、今日もまた練習台になっていたのだ。
今回はこの間と違い、背中に羽をつけられ天使の格好をさせられている。
もちろんメイクはプロの人にやって貰い、服もスタイリストさんが用意してくれていたもの。
「ねぇ、どうでもいいけど早く撮りなよ」
そう言いながら、あきれ顔でこっちを見ているのは人気モデルの聖。
今日の彼の格好は、上がキラキラ輝くドクロが大きく描かれている白Tシャツ、下は紫のカラーデニムにウォレットチェーン。
さっきまでこの隣りのAスタジオで撮影だったらしく、それが終わったのでこちらの様子を見に来たらしい。
思うんだけど、私じゃなく被写体を聖にすればいいと思う。
だって、本物のモデルさんなんだし。
「んな事わかってるって。けどよ、モデルのこいつがボケっとしてたらどうにもなんねぇだろ」
「たしかにそうだけどさ。でもこのスタジオ使えるの、後30分しかないんだよ。それに、今日中にデータ持ってかないと当日まで間に合わなくなるじゃんか」
――ん?当日まで間に合わない?
「ねぇ、これって写真の撮影練習だよね?」
「あ?何だよ急に」
だって聖の話聞いてると疑問を抱かずにはいられなくて。
「とにかく、撮影続けるぞ。逢月、お前ボケっとすんなよ」
「え、ちょっ……」
誰か私の不安を拭って!!
そう思った時だった。
「逢月桜音ってどの女よ!!」
と甲高い声が聞こえたのは――