第六話 からかう理由
だめだ。やっぱり気になって頭から離れない。
私は見終わったテレビを消し、クッションを抱えこんでソファへと寝転がった。
理由はもちろん、今日の涼と海の喧嘩の理由についてだ。
おかげでさっきまで見ていたドラマの内容を全然覚えてない。
それにしてもあの二人、一体なんで殴り合いの喧嘩なんてしたんだろう?
二人に聞いたんだけど、涼も海も教えてくれないし……
もしかして部活の事かもしれないとかいろいろ考えてみたけど、
推測にしかすぎない上に理由として納得できるものが全然浮かんでこなかった。
どっちから先に手を出したかわかんないけど、あの二人の事だからそれなりの理由っていうのは確かなんだろうけど。
「でも、もう大丈夫だよね」
だって涼も海もあの後、普通に何事もなく会話してたし、明日も一緒に部活行く話もしてたもん。
ここは、やっぱりしばらくそっと様子を見……――
「!?」
――なっ、何!?
突然右頬に感じた弾力のある柔らかい感触に思考を停止されてしまった。
この感触たしか前にも感じた事がある。
あれはたしか……――
頬を押さえてガバッと起き上がると、思い当たる原因を引き起こした人の名を叫んだ。
「海っ!!」
最初は虫か何かが当たったのかなぁって思ったんだけど、触れたものが柔らかかったし、
気づいたら人の気配を感じてたので、まさかと思ったらやっぱり!!
頬に柔らかい感触があったのは、海が私にキスしたせいだ。
「ん?どうしたんだ?」
わかってるくせに、クスクス笑うなっ!!
海はさっきまでお風呂に入っていたため、Tシャツにハーフパンツというラフな格好をしている。
あっ。
髪から雫が落ちてくるのが見えた。
海は最近、暑いからって理由でドライヤーをかけない。
そのため、水滴が落ちてきてもいいように肩からタオルをかけている。
も〜、ちゃんと乾かしてって言ってるのに。
――って、今はそれどころじゃないし!!
「私の事からかうの辞めてって、前にも言ったじゃん!!」
恥ずかしさのあまり半泣きになりながら、私は海に怒鳴った。
海は隙あらば私の事を膝の上に座らせられたり、抱きしめたりする時がある。
しかも「桜音、真っ赤」とか言いながら頬をつつきながら、からかってくるんだよ?
こっちはそういうの慣れてないからしかたないのに。
「ほんと恥ずかしいの。だから、絶対辞めて。わかった?」
そう言って隣に座った海の顔を見るけど、海は幸せそうに微笑んでいる。
え〜っと、私一応怒鳴ったんですけど?
「それはちょっと無理だな」
「なんで辞めてくれないの!?海の意地悪っ!!」
「意地悪かぁ……桜音はほんと可愛すぎるよな」
はっ!?私が可愛い!?
もしかして、涼と喧嘩して頭打つたとか……?
病院連れて行った方がいいのか考えてると、ぽんぽんと頭を撫でられてしまった。
――って、ちょっと待って撫でないで〜。頭撫でられるの弱いんだから!!
海に頭を撫でられて私は、いつも通り力が抜けリラックスモード。
私はさっきの事をすっかり忘れ、海の肩にもたれるようにしている。
「……はぁ。なんでこんなに無防備なんだよ」
海はため息まじりに呟いたけど、知らない。
だって、弱いもんは弱いんだもん。
私は心地よさのあまり目を閉じながら、それを聞いていた。
「桜音」
「ん〜……――」
あ、やばい。眠くなってきちゃった。
寝るなら部屋に行かなきゃとは思ったけど、面倒だ。
少しだけここで寝ちゃおうかな……
「花火大会、一緒行く約束覚えてるか?」
眠さのあまり返事をするのも億劫だったので、私はただ首を縦に動かした。
来月花火大会があるんだけど、そこに行こうって海に誘われていたのだ。
その間に海の誕生日があったり、海の部活の合宿があったりといろいろイベント事がある。
「……き……桜……伝え……事が……――」
あ〜、もう駄目だ。
やばい。ちゃんと話を聞かなきゃいけないのに……
海が何か言ってる気がするけど、眠りの世界に引きづりこまれてしまった私にはわからなかった。