第四話 窮地に現れた女神
なんでこうなるかな……
私は只今後ろを壁に、周りを見ず知らずのお姉さま達に包囲されている。
今思えば、少し警戒心を持てばよかったのかもしれない。
中庭から教室まで移動中に呼び止められ、「少し手伝ってくれない?」との誘いに文句に自分からのこのこついて行ってしまったのだ。
んで、来てみればこれ。
「あんたが、逢月桜音?」
腕を組んだ中央の人物が私の名前を呼ぶ。
この人たしか……在原のファンクラブ会長。
まじまじと人の顔を除きこんだかと思うと、鼻で笑った。
「なんだ、大したことないじゃない」
「っていうか、普通じゃん」
「ねぇ、会長本当にこいつで間違いないの?」
本当の事なんだけど、なんか癇に障るんですけど。
「で、在原君とはどういう関係なのよ?まさか、彼女とかじゃないでしょうね?」
「いや、どういう関係も何もありませんけど」
「ならどうして、手を繋いでたのよ」
――手?
ああ、朝のアレか。
でもあれは繋いでたというより、引きずられていたという方が正しいんじゃ……
「本当に最近目障り奴が多いのよね。二年の片桐とか。一年も入ってきた事だし、和を乱さないでほしいわ」
一々こんな事で呼び出されるなら、もし一緒に暮らした時バレたら私はどうなるんだろう。
そんなことを考えただけで、憂鬱になる。
「とにかく、二度とあの人に近づかないでちょうだい」
「嫌です」
自分でも思いも寄らぬ言葉に驚き、慌てて口を塞ぐがもうすでに手遅れ。
なんでそんな事を言ってしまったのだろう。
わかりましたって言っておけば、この場は丸く収まるのに――。
そのセリフを聞いた会長さんは、烈火のごとく怒り私を壁に押した。
「……っ痛」
背中に鈍い痛みが走ると共に、体に力が入らずそのままずるずる床に座り込むんでしまう。
「もう一度言うわ。二度と近づかないで」
近づこうか、遠ざかろうが誰にも許可なんていらない筈だと思うんですけど。
なんか、だんだんバカバカしくなってきた。
ファンクラブだからって、交遊関係まで口挟む権利なんてないんじゃない。
「嫌です」
「言葉で言っても分からないのね」
そう言って、右手を振り上げる。
やばっ、叩かれる!!思わず目を瞑ったのと同時に扉が開け放たれた。
「こんなところで何をしているんですか。ここは授業以外の立ち入りは禁止されています!!」
そこに視線を向けると、綺麗めの美人が扉に手を掛けていた。
白陶器のような肌に、耳が隠れるぐらいまで伸びた色素の薄い髪がよく合っている。
どうして、千里ちゃんがここに?
彼の名前は藤原千里。
その容姿から男なのに、学園三大美女の一人として数えられている。
千里ちゃんの大きめの瞳が私を捉えると、この状況を判断したのか綺麗な顔が歪んだ。
「千里ちゃん」
私が彼の名を呼ぶと、腰に手を回し立ちあがらせくれた。
「大丈夫ですか?桜音さん」
「うん。全然平気」
そうは言ったものの、千里ちゃんの制服を掴む手が震えていた。
「二度と桜音に近づくな」
千里ちゃんはそう言って、お姉さま方を睨むと私を教室から連れ出してくれた。
あんな千里ちゃん初めて見た。
いつもの千里ちゃんとは違い、敬語じゃなかったし、声色とかも全然違った。