第五話 二人して
あ、もう着いちゃったんだ。
もうちょっと乗ってたかったんだけどなぁ……
今まで風と一緒に次々と移り変わっていく風景だったのに、今はそれがなくなり視線の先には見慣れた私の家になっている。
私はゆっくりと背中に回していた手を緩め、バイクを降りた。
「ありがとう。送ってくれて」
被っていたヘルメットを取り日下部君に渡すと、さっと手で髪をなおす。
バイクを運転してくれていたのは日下部君。
送ってくれるっていうので、お言葉に甘えて家まで送って貰ったのだ。
「いや。今日は悪かったな。付き合ってもらって」
「ううん。いいよ、夏休みだから時間あるし」
私達はただ今、夏休みまっただ中。なので、時間はたっぷりとある。
私も時間を有意義に使おうとバイトを増やしたり、涼達と海に遊びに行ったりと楽しんでいた。
もちろん、来年受験生なので塾に行ったり学校の課題もしているけど。
「それに楽しかったもん。なんかモデルさんにでもなった気分だったよ」
私はさっきまで日下部君のバイト先――スタジオに居た。
そこで私は日下部君の写真練習のためのモデル代わりをしていたのだ。
練習って言っても、本格的だったんだよね。
だってメイクもプロのメイクさんだったし、服や小物も人気のブランド物をスタイリストさんが選んでくれたんだもん。
ただちょっとポーズとるのがなかなか難しかったんだよね。
最初どうとっていいかわかんなかったんだけど、用意されてあった雑誌とか参考にしたり、日下部君の指示でなんとかなった。
「なんかシーンごとにセットも組まれたりして、まるで雑誌か写真集の撮影みたいって錯覚しちゃった」
「あ〜、逢月。実はそのことなんだが……」
日下部君は何か奥歯に物が挟まったような言い方をして、なかなか言葉を発しない。
ん〜、なんだろう?何か言いたいことあるのかな?
日下部君が言うの待ってたら、後ろから「桜音」って二つの声によって名前を呼ばれた。
それは涼と海の声。
あ、部活終わったんだ〜。
私は振り返ったんだけど、ジャージ姿の二人の姿を見て言葉が出なかった。
「何、お前ら喧嘩でもしてきたのかよ?」
日下部君が海と涼の顔を見ながら言った。
日下部君がそう聞きたくなるのもわかるぐらい、海と涼の顔には口や頬に殴られた後があったのだ。
「しょ、消毒!!」
そうだ、ぼうっと見ている場合じゃない!!
急いで家の中で治療しようと二人の腕を掴んだんだけど、それを涼に外されてしまう。
「大丈夫だよ、桜音。俺も海も保健室でして貰ったから」
「でっ、でも……」
「心配するな。そんな見た目ほど痛くないし」
海は少しでも私の事を安心させようとしたのか、そう言って私の頭を撫で始めた。
普段ならそれで落ち着いたり出来るかもしれないけど、今はそんな事できない。
一体誰と喧嘩したの……?
海は見た目ほど痛くないって言っているけど、唇の端が腫れたりして痛そうだ。
「えっ、マジで?俺、結構本気で殴ったのに」
「!?」
さらりと言った涼の言葉に私と日下部君は絶句し、海はばつが悪そうに顔をそむけた。
一体、二人に何があったの!?
長らく放置しててすみません。
パソコン壊れて修理中でした(-_-;)
長かった……
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました<(_ _)>