第四話 聖
おっ、おいしそう……
口元にあるスプーンの上には四角に切られたマンゴーとバニラアイスが乗っている。
今すぐにでもそれを食べたい!!
だって、あんなに食べたかったパフェだもん。
でもさすがにこれじゃあ――
「ほら、あ〜ん」
聖は私の口元にスプーンを差し出しながらそう言った。
それをさすがに食べることは出来ずに首を横に振る。
出来るわけないよ〜っ!!聖に食べさせて貰うなんて!!
だって今日が初対面なんだよ!?それに、あの聖にだよ!?
涼とかにならなんの抵抗もなく食べさせてもらうけど、この状況は無理〜〜〜っ。
「早く口あけなよ」
「自分で食べれるから大丈夫です」って言おうと思ったんだけど、
口あけた瞬間にスプーンを咥えさせられそうなので、ただひたすら首を横に振る。
聖に食べさせて貰うなんて出来ないし、それにあれはどうみても――
ちらっと聖の左手を見ると、携帯がこちらに向けられている。
明らかに写メる気だし!!
一体、聖はここに何しに来たの〜〜〜!?
「まさか、この僕に食べさせられるのが不服とでも?」
「!?」
なかなか食べない私に苛立ったのか聖の声は低くなり、視線は鋭くなり始めてきた。
うっ……海もだけど、整った顔立ちの人が怒るのって恐怖倍増……
その圧力に逃げられないと観念し、私はおとなしく白旗を上げた。
覚悟を決めて口を開け、スプーンを口の中に招き入れると程よい甘さが口の中に広がる。
あ、おいしい。
それと同時に、カシャっという機械的な音が耳に届いた。
やっぱ写メったし!!
「あ、あの……」
「ああ、大丈夫。心配しなくてもよく撮れているから」
「そういうことじゃなくて――」
それどうするんですか?って聞きたいんです。
聖はこちらを見ることなく、何がおもしろいのかクスクス笑いながら携帯を操作している。
「あ、あとパフェは海が頼んでいったものだから、君の分。だからあとは自分で勝手に食べてね。
他にも食べたいものや飲みたいものがあったら頼んだら?海のおごりなんだし」
聖はそう言うとやっと携帯から目を離し「溶ける前に早く食べなよ」と、私の方にパフェを移動させてくれた。
「聖は……聖さんはどうしてここに?」
「聖でいいよ。同じ年だし敬語もいらない。ここに来たのはただ、噂の桜の精を見に来ただけ」
私はそれを聞いて首を傾げた。
さくらのせいって何?もしかして、桜音と間違えたのかな?
聖はそんな私を見て、何かわかったのか「……ああ」と呟いた。
「別に名前間違えとかじゃないよ。桜の精っていうのは、桜の妖精の事で君の事。海の仲間内の間では、君はそう呼ばれている。
まぁ、他にも桜の姫君なんても呼んでいるやつもいるみたいだけどね」
「妖精!?姫!?私が!?」
「他に誰がいるっていうの?」
なっ、なんでそんな事になってるの〜〜っ!?
思わずテーブルに肘をついたまま頭を抱えてしまった。
「しょうがないよ。あの海の寵愛を受けてしまったんだから」
「……寵愛?」
海は優しいけど、寵愛受けているのかな?実感がないから、よくわからない。
「そう、寵愛。もしくは溺愛でも可だけど。さあ、どうするの?桜の精。逃げるなら今のうちだよ――」