第五話 ペンギンのおかげ
ここに来れば少しは機嫌良くなるんじゃないかって思ったのに……――
透明なガラス越しにラッコが優雅にイカを食べながら泳いでいる。
いつもなら可愛い〜!!って言って水槽に張り付くようにして見ているはずなんだけど、今日はさすがに出来ない。
だって海の機嫌が治らないんだもん。
ちらりと左隣にいる海を見ると、腕を組みながら難しい顔をしてそれを見ている。
臨海公園で千里ちゃんと別れてから、ずっと海の機嫌が悪いままなのだ。
お互い何にも言わないから会話ゼロだし。どうしよう……
この状態で今日一日は気まずいし絶対に嫌だ。
やっぱ何か話しかけた方がいいよね。でもなんてしゃべりかければいいんだろう……?
あれこれ策を考えながらラッコの水槽を離れた先に進んだ。
――なんなのこの愛らしさ。
海との微妙な空気をなんとかする案を考えなきゃならなかったんだけど、今はそれどころじゃない。
だって、これやばすぎるよ!!
目の前にはプールがあって、その奥には岩場がある。
私はひたすらそこにいる灰色と白の羽を纏っている小さい生き物を見ていた。
これならたぶん一日見ていても絶対飽きない自信がある。
そのぐらい私はすっかり魅了されてしまっていた。
だらしないぐらいに、もうすっかり骨抜き状態。
もう可愛いすぎる!!ペンギンの赤ちゃん。
親ペンギンの傍にぴったりくっついてペンギンの赤ちゃんがいる。
えっと……ジェンツーペンギンっていうんだ〜。
ヒナはこっちに興味がないのか、全然こっちを見てくれない。
うぅ……こっち見て欲しいのに。でもいいや、可愛いから。
――あ。
それはほんの一瞬の出来事。
ヒナが口を開けて欠伸したのだ。
「ねぇ海、見た?見た?可愛いすぎるの!!」
隣にいる海の腕にしがみつくと、それを興奮気味にしゃべる。
すると海は左手を口にあてて顔を赤くした。
「――っ」
あっ、海もヒナの愛らしさにやられちゃったんだ。
なんか動物の赤ちゃんって保護欲かき立てられるもんね。
「……ああ。可愛いな。今すぐ抱きしめて俺以外見せたくない」
うんうんわかる。
だってふわふわの体抱きしめたいし、あのつぶらな瞳に映るの自分だけにしたいもんね。
「ほんと些細な動作一つで心乱されちゃうよね」
「本当にな。本人はそんな事気づいていないだろうけど」
……ん?本人?
ペンギンって人じゃないと思うけど、まあいいか。
海は微笑みながら私の頬を撫でこっちを見ている。
――ってあれ!?海の機嫌なおってる!!
よかった〜。もしかしてペンギンの赤ちゃんのおかげかな?
あけましておめでとうございます<(_ _)>
今年も合鍵をよろしくお願いします!!