第三話 もしかして押しに弱い?
「……わた……し……?」
頭と口が上手く働かない。
生まれて初めてされた告白はものすごく複雑なものだった。
だって相手は友達の――みくの好きな人。
「信じられませんか?」
信じるも何も状況にまったくついていけてない。
だって千里ちゃんなら相手に困らないし、もっと可愛い子とかいるし……
「――なら信じてもらえるような事をしましょうか?」
「え?」
疑問に思っている間もなく、顎に手をかけられ視線が芝生から無理やり千里ちゃんに切り替えられる。
触れられている手が細く骨ばっていて、男の人なんだと改めて認識させられてしまった。
「僕は好きな人にしかキスしないって、この間言いましたよね?」
「あ……――」
数日前の出来事が頭の中に浮かぶ。
「あの時、慰めて貰っているだけって言われてショックだったんですよ。
あれならいくらなんでも気づいてもらえるって思ったんですけど……本当に鈍すぎますよね」
そうだよね……いくらなんでも慰めるのにああいう事しないよね。
でもだってさ、まさか千里ちゃんが私の事好きだなんて思いもしないよ。
それにしても気づくの遅いっていうか、鈍すぎるにもほどがあるよ、私。
「……ごめんなさい」
「いいですよ。気づかれるとやっかいな事もあるので」
やっかいな事って何があるの?
あぁ、頭痛くなってきた。
たぶん他の人なら気づく事なのに、なんで私ってこうなんだろう……
軽く自己嫌悪におちいっている間にも時は一刻と過ぎていく。
――ってちょっと待って!! このパターンって……
千里ちゃんの顔がだんだんアップになってきて、やっと今自分が置かれている状況がわかった。
今度は頬とかじゃなくて、まさか唇!?
『ファーストキスが事故チュー』で今度はこれ!?
そんなの嫌だ。今度はちゃんと好きな人と――
「海っ!!」
無意識だった。
気がついたら心の中に浮かんでいた人の名前を叫んでしまっていた。
それも自分でもよく出たなと思うぐらい大きい声で。
海がいるのは私達から少し離れた所だし、こっち側は死角になっていて見えないので声が聞こえたとしても間に合わない。
「……ん」
すぐ目の前にはアップの千里ちゃんがいるけど、まだ唇には触れていない。
でもたしかに唇は塞がれてしまっている。
でもそれは千里ちゃんの唇によってじゃなく、もっと大きい何かによって。