第二話 なんでここに?
臨海公園は土曜ともあって家族連れやカップルで賑わっていた。
私と海が待ち合わせたのは、公園内の大時計広場前。
ここなら目立つし、水族館まで徒歩五分圏内だから場所的にもちょうどいい。
こういう時って、あの人達が居なくなるまで待った方がいいの?それとも待たせてるから行った方がいいの?
私は頭を抱え、刻一刻と近づいている約束の時間に追われていた。
さっき時計みたら十分前だったよね。もう海来ているし……
日下部君が見たら、きっと早く行けって怒鳴るよね。
溜息を吐きだすと、時計台の下にいる男の人とその前に立つ二人の女の人に目を向けた。
それは海と、海に声をかけていると思われるお姉さん二人組。
二人とも雑誌から抜け出た人のように綺麗でおしゃれだ。
私は今あのお姉さん達が居なくなってから行くか、それとも今行くかで迷っていたのだ。
……やっぱ行こう。それに待たせるのは悪いもん!!
ざっと見れる範囲で自分の格好を見て確認する。
よし、ゴミとかもついてないし汚れもないし大丈夫。
やっと決心して足を踏み出したんだけど、肩を叩かれ止められてしまった。
――誰?
中途半端に踏み出した足を止め振り返ると、見知った男の人が立っていた。
上は英字がプリントされたTシャツに水色のストライプの半袖シャツを羽織っていて、下は薄い茶色のパンツを履いている。
「千里ちゃん!?」
私の驚きを余所に千里ちゃんは穏やかな笑みを浮かべている。
えっ、なんでここにいるの?
「おはようございます。桜音さん」
「お、おはよう」
「今日、髪巻いてるんですね。メイクもされてなんだかいつもと雰囲気違いますね」
千里ちゃんはそう言って、ゆるやかに巻かれた髪を指に絡ませる。
「……うん。ちょっとやってもらったの」
「その服も桜音さんに似合ってて、可愛らしいですよ」
「ほんと?良かった」
私の今日の格好は、白の胸下切り替えのキャミワンピに肩からカゴバックを下げている。
そして足元はリボンモチーフのメタリックゴールドのウェッジソールミュールといった感じだ。
白い服って汚れが目立つからあんま着ないんだけど、これは裾の所がフリルになっているし、
左胸の所には花を模したコサージュが付いているのが気に入ったんだよね。
海も可愛いって思ってくれるといいな……ってそんな場合じゃない!!
千里ちゃんをなんとかしなきゃ。じゃないと海の所に行けない。
「千里ちゃんもこっちに用事があったの?」
「ええ」
「そっか」
どうしよう。海にメールして待ち合わせ場所変更してもらった方がいいのかな?
そんな事を考えていると、頬に自分じゃない人の体温を感じた。
――は?
メールを打つ為に開いた携帯から目を離し、千里ちゃんの方を見る。
すると、浮かべていた穏やかな微笑みが消え真面目な顔になっていた。
えっ、何?どうしたの?
「実は僕、告白しに来たんです」
「告白?」
「はい」
「千里ちゃん好きな人居たの?」
「居ますよ」
誰なんだろう。みく知ってんのかな……
考えても全然見当がつかないや。
うちのクラス?それとも他のクラス?
「桜音さんは相変わらず顔に出やすいですね」
思案してたのがバレたのか、千里ちゃんがクスクスと笑いだしている。
自分ではわかんないけど、よく言われるんだよね。
だからあんま嘘つけないからポーカーフェイスの人が羨ましい。
「その上、鈍い」
「あ〜、それも言われるんだよね」
「でしょうね。でも正直、最初はそれで助かってました。気づかれなければ気まずくなりませんから。
けど、そう呑気にしてられなくなってしまったんです」
なんかこの流れって……
――いや待って。そう考えるのはただの自意識過剰なだけかもしれない。
だって、千里ちゃんは校内でも海と人気を二分するような人だよ?
まさか、そんなわけない。
「本当に顔に出やすい人ですね。そのまさかですよ――僕の好きな人は桜音さんです」