ハロウィン企画 Trick or Treat?
*このお話はもう二人が付き合っている設定になってます。
「イタズラしねぇの?」
「……は?」
思わず歩いていた足を止め、隣を歩いていた人を見る。
日下部君はコウモリの描かれた袋からクッキーを取り出すと、それを口に運んだ。
日下部君が食べているのは、パンプキンクッキー。
さっきまで部活だったので、その時作ったものをあげたのだ。
同じようにその時作ったものをもう一つ持っている。
それは海にあげるものだ。
「だからよ〜、今日はハロウィンだろ。あいつに堂々とイタズラ出来るじゃねぇか」
たしかに今日はハロウィンだからイタズラが出来る。
でもそれはお菓子をくれない時であって、貰えば意味がない。
「あいつ菓子とかたぶん持ってねぇぞ」
「そうかもね。でも、海の事だから絶対倍になってかえってくるからしないよ」
「ああ。あいつなら絶対そうするな」
「でしょ。まぁ、海が寝ている時とかなら話は別だけどね」
「寝ている時――」
「うん」
だって寝ていれば気づかれないから、イタズラしたことがバレないもん。
それなら、やり返される事もないし。
「逢月」
「ん?」
「悪いけど、部室に忘れもんしたから先に海と帰ってくれ」
「えっ、うん。わかった。じゃあね、バイバイ」
「おう。またな」
そのまま日下部君と別れ、海の待つ教室へと向かった。
えっ、寝てる。
海は机に伏せて寝ていた。
珍しい。ここまで近づいても起きないなんて……
今、手を伸ばせば触れるぐらいの距離にいる。
『イタズラしねぇの?』
「――っ」
日下部君にさっき言われた言葉が頭によぎる。
今がチャンスじゃない?
もう一人の自分の囁きにあっさりと負けてしまった。
「Trick or Treat?」
起こさないように消えてしまうぐらい小さい声でそっと呟く。
お菓子くれないからいいよね……?
というか寝ているから返事なんて出来るはずない。
机に隠れていない頬にそっと唇を落とす。
普段なら恥ずかしくて自分からは絶対にしない。
でも今は、海が寝ているから……
「唇じゃないのか?」
海は上半身を起こすと、こっち側に体ごと向けた。
「起きちゃったの!?」
「いや、寝てなかった」
「なんで寝たふりなんかしてんの!?」
「日下部からメール貰ったんだ。寝たふりすれば良い事あるかもしれないって」
よけいな事を!!
私もイタズラなんてよけいな事をしちゃったのよ……
「まさか桜音にこんな可愛いイタズラされるなんてな。ハロウィンも悪くない。俺も楽しもうかな?」
「いっ、言っておくけどお菓子持ってるからね!!」
お菓子があるから海は私にイタズラ出来ないはず。
良かった、今日部活あって……
「Trick or Treat?」
海は意味深な笑みを浮かべる。
えっ、何で?お菓子があることを知っているじゃん。
不思議に思ったけどお菓子を差し出す。
海はそれを受け取ると、机の上に置いた。
「これはいらない」
「な……んで……?」
いつも喜んで貰ってくれるのに。
「そんな悲しそうな顔するなよ。俺がこれを貰ったら、桜音にイタズラ出来なくなるだろ?だから、これはイタズラが終わってから貰う」
「……。」
それって――
いそいで机の上に置かれた袋を取り、それを海に押し付けた。
「いい。ほんとイタズラとかいいから!!お菓子あげるから!!」
「だから、これは貰うけど終わってからって言ったろ?」
その後攻防戦を繰り広げた結果――
私が白旗を掲げ、甘いイタズラを受けてしまった。
というわけで、ハロウィン企画でした〜。
ここまで読んで下さった方ありがとうございました。