表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
合鍵  作者: 歌月碧威
33/112

第十九話 出された条件

「な〜、消毒どうだった?」

「ゴホッ」

やばい。

隣に座る日下部君の問いかけに、飲んでいた紅茶が気管に詰まった。

私と日下部君は、中庭のベンチに座っている。


良かった、放課後で。昼休みとかなら、人も多いから絶対視線が集中してたよ。

咳きこみながら、なんとか落ち着こうと鎖骨の下辺りを叩く。

それを見た日下部君は、「やっぱな」と言いながらニヤッと笑った。


あの朝の消毒から数時間後になってやっと平常心を取り戻す事が出来た。

それなのに――

なおも笑っている日下部君を睨む。

やっと気持ちが落ち着いたんだから、その話には触れないでよ。

ほんと顔は赤いし挙動不審だしで大変だった。

みくには何かと勘ぐられたし……


「っていうか、なんで知ってんの!?」

「あ〜それ適当に言った。海の奴ああいう性格じゃねぇか、だからまさかと思ったんだが本当にされてたんだな」

日下部君は、ソーダー味のアイスに齧りつく。

さっきすぐそこにあるコンビニに買いに行ってきたものだ。

あっ、冷たくておいしそう。やっぱ私も買ってきて貰えば良かった。


「お前もよ、流されてばっかじゃなくてたまにはちゃんと拒否れ。嫌なら、殴ってでも海を止めろ。海だけじゃねぇ、藤原の時だってそうだ」

「……うん。でもね、いい訳するわけじゃないけど海のは嫌じゃなかったんだ」

千里ちゃんの時は、海の事で頭回んなかったからよく覚えてないけど。


「――は?」

「あっ!!アイスやばそうだよ」

水色のアイスはやけに片方にだけ重心が片寄っていて、溶けた液体が棒を伝って日下部君の指に流れている。

落ちちゃうよ。

「それどころじゃねぇよ!!」

いや、でもアイスが……


「お前それどういう意味かわかってんのか?」

「何が?」

「そうくると思った。お前だもんな。んじゃあ聞くが、もし俺にキスされたらどうする?」

「宮代先輩に言いつける」

即答で答え、膝の上に置いている雑誌をめくった。

「怖ぇ……一瞬想像しちまったじゃねぇか……。そういう事じゃなくてよ〜」

日下部君は、「あ〜」とか言いながら地団駄を踏み始めた。


「ったく雑誌なんて読んでんじゃねぇよ!!お前の事だろうが!!」

「あ〜っ」

立ち上がった日下部君に雑誌を取り上げられてしまった。

ジャンプして取り上げようとしても、届かない。

これ今日中に読んで、みくに返さないといけないのに。


「つまり俺じゃ嫌だって事だろ?んじゃあ、他の奴はどうだ?水谷は?」

「なんで涼が出てくるの?涼でもキスは無理だよ。言っておくけど他の人も無理」

「それって、海だからいいんだろ?」

なんか海だからって限定しちゃったらまるで私が海の事『好き』みたいじゃん。


「好き……?」

日下部君があきれ顔でこっちを見ている。

「私、海の事好きなの!?」

そういえば今考えるとそれっぽい事は多々あったような気がする。

片桐さんとの関係がやたら気になって仕方無かった事とか。

「俺に聞くな!!」

うそでしょ!?普通感覚でわかるのに、こんな風にしてやっと気づくなんて……

あ〜、頭が混乱してきた。


「……私って鈍くない?」

「まぁ、それは結果オーライっう事で。それと言っておくが、まだ気づいてねぇ事あるからな」

「これの他に!?」

「ああ。けど、それももうすぐ解決するからいい。行くぞ」

日下部君は、私の腕を掴むと立たせ校舎の中に連れて行こうとする。


「もしかして、体育館に行くとかじゃないよね?」

「よくわかったな」

やっぱり、そんな事だと思った。

告白なんてしたら、一緒に暮せなくなっちゃう。


「言わないからね」

「なんでだよ」

「振られて気まずくなったらどうすんの!?私、唯一の接点なくすんだよ?」

「んな、振られるとはかぎんねぇだろ」

「かぎるよ!!」

掴まれていた腕を振りほどく。

だって高嶺の花すぎるじゃん。私なんかじゃ無理だよ。


「海には言わないで。絶対に」

「さ〜、わかんねぇな」

絶対言う。この口調だと。

口止めしなくちゃ。日下部君の弱点は……

あっ、あった。けどこれはさすがに可哀想。でも背に腹はかえられない。

ごめんね、日下部君。


「――もし言ったら、二度と宮代先輩と遊び行く時誘わないから」

いつもよりはっきりとした口調で告げた。

「はぁ!?お前、それ俺にとって一番の脅迫じゃねぇか!!」

そうなのだ。日下部君は宮代先輩と遊びに行くには私がいないと行けない。

なぜなら、二人で遊びに行こうと誘っても断られるから。


「お前そういう奴だったのかよ。……わかったよ。そのかわり、今すぐじゃなくてもいいから絶対自分の気持ちは伝えろ。

あと、少し自分に自信を持て。お前はなさすぎる」

それって告白しろって事!?


「悪いがこれを約束しなきゃ言う。部長の事は自分でなんとかするからいい」

それじゃあ、うんっていうしかないじゃない。

でも――


「答えは?」

「うぅ……わかった。自身の方はなんとか頑張ってみる。でも、告白するのはすごく先になるかもしれないよ?」

「あ〜、構わないだろ」

条件付きでなんとか口止めに成功したものの、難易度が高すぎる。

はぁ……私、これから先どうなるんだろう。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ