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合鍵  作者: 歌月碧威
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第十八話 海的罰の執行

「――という理由わけなの」

私は中庭で見たことや保健室での片桐さんとの話、そして家に帰らなかった理由を話した。

さすがに二人の仲が気になって仕方がなかった事には触れていない。


「なんでそんな事信じたんだよ」

海はあきれ顔で溜息を吐いた。

「だって……片桐さんも言ってたし、キスしてたように見えたし」

「あれはただ引っ張られて触れただけで、キスでもなんでもないだろ」

よく考えればそうなのかもしれなかったんだけど、あの時はショックのあまり頭が回らなかった。

「……本当にごめんなさい」

謝罪の言葉を述べ頭を下げた。

肩下まである少しくせのある髪がぱらぱらと落ち左右の視界を遮る。


許してくれるかな……

おそるおそる顔をあげ向かえに座る海の様子を窺いたいが、怖くてそれが出来ず目を瞑ったまま。

ほんの二・三秒しかたってないはずなのにすごく長く感じ、自分の鼓動の存在だけがやたら大きく感じる。


「とにかく今回は涼が間に入ってくれてなんとかなったけど、次はどうなるか分からない。だから、今度からちゃんと俺に言うんだ。

ほんの些細な事でもいいから。それから、すぐに人の話を鵜呑みにするな。本来なら良いことだと思うけど、桜音はそれが極端すぎる」

「はい。本当にごめんなさい……」

「わかったなら、顔あげて」

声のトーンは普段と変わらないように思える。

視線を海の足から顔にかけて少しずつ上げていくと、海は机に頬杖をついてただこっちを見ていた。

その表情はいつも学校で見せてるように冷めていて、表情が読めない。


「……許してくれるの?」

「ああ」

「また一緒に住んでくれる?」

「そうしてくれなきゃ俺が困る」

海が苦笑いで応えた。

それを聞いて安心して、少しだけ体の力が緩やかになり握りしめていたスカートを放す。

強く握りしめたためか、紺色のプリーツスカートは皺になっていた。

――良かった。


「安心するのはまだ早いんじゃないか?桜音」

えっ……

その言葉に顔の筋肉が強張った。

「まだ話は全部終わってない。藤原千里の事が残っているだろ」

えっと、千里ちゃんの事?

なんでいきなりそんな話になったか分からず、首を傾げると海の手が頬に添えられた。

「警戒心の無さすぎた桜音に、罰を受けて貰わなければならないと思わないか?」


自分でも早かったと思う。

その言葉を聞いて、脱兎の如く教室を逃げ出した。






「桜音、俺を撒けると思ってたの?」

最初は思ったよ……だって、追いつかれる!!って思ったら逃げ切れたんだもん。

さすがにそんなのが何回か続くと、おかしくない?ってなったけど。

たぶんきっと海は遊んでたんだと思う。


「諦めれば?」

近づいてくる海から少しでも遠ざかるために足を一歩ずつ後ろに下げるが、すぐに硬い物体にぶつかりこれ以上さがれなくなってしまった。


――やばい、もう壁。


「海、絶対こうなる事わかってたでしょ」

海は返事の代わりに口角をあけた。

ずるい。ずるすぎる。だからやすやすと教室から逃げれたんだ!!

よく考えてみれば、いつも海は逃げ出す前に私を捕まえるもん。

結局運動部に勝てるわけもなくて、上手く誘導されるように追いかけ回され、結局行き止まりに追い込まれてこうなってしまった。


廊下の一番奥に私と海は二人向かい合うように対峙している。

もう逃げ道ないじゃん。

どうしようかとあれこれ考えるが、最良な考えが浮かんでこない。


「本当に無防備すぎるし、無警戒すぎるよな」

「気をつけるから!!今度から気をつけるから!!」

「駄目。桜音って口で言ってもわからなそうだし。だから消毒も兼ねて教えてあげなきゃならないだろ?」

しょ、消毒って……まさか!?


海の端麗な顔が近づいてきたかと思うと、頬に何か柔らかいものが当てられたのだ。

それが唇だとわかると、全身の血液が沸騰するような感覚に襲われた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!ちゃんとするから!!」

状況が余りのみこめてないくせに、その場から解放されるためにひたすら謝り続けた。

「桜音、わかってないだろ」

「わかってるよ。わかってるから!!」

一回頬にされただけで心臓は早鐘だし、体は逆上せたみたいになってる。

あと数回されてしまったら、絶対身が持たないよ。

そうなってしまった時の事なんて想像出来ない。


「もうこれで消毒終わり。一回しかされてないもん」

たぶん日下部君に「あいつキスされてたぞ」みたいな感じで聞いたと思うから、誤魔化せるかもしれない。

「そうか」

「そうだよ〜」

もう乾いた笑いしか出ない。


「おかしいな。『桜音さんの泣き顔は可愛らしいですね。肌も柔らかいですし。何度唇を合わせても足りませんでした』――って聞いたんだが?」

海の眼が細められ、鋭い視線とかちあった。

えっ、聞いたのって千里ちゃんに!?千里ちゃんがそんな事言ったの!?


「日下部君に聞いたんじゃないの?」

「日下部には、藤原と桜音がちょっとあったってしか聞いてない」

「そうなの?」

「今朝わざわざ藤原千里自ら、うちのクラスに報告しに来たんだよ」

海は顔を歪め忌々しそうに言った。

なんでそんな事を。しかもよりによって、海に言うなんて。


「ああ、そうだ。された場所言って。じゃないと消毒出来ないだろ?もしまた誤魔化そうとしたら、いっぱいするから」

「いっ……ぱ……い……」

あっ、血の気が引いてくらっときた。


私の逃げるすべは、もう見回りの先生に見つかるしかないのかもしれない――












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