第十二話 秘密の場所
「……っく」
唇を結んで鳴き声を漏らさないようにしているけど、それは無意味な事だった。
誰も居ないから思いっ切り泣けるけど、そうはしたくない。
そうしてしまえば、きっと止まらなくなってしまう。
「やだよ……海……」
海と片桐さんが付き合っていても私には関係ないはずなのに。
変な敗北感と共に、何かモヤモヤしたものが私に纏わりついている。
なんで?自分の事なのにわかんないよ……
保健室で片桐さんと逢った後、気がついたらここに来ていた。
ここは小高い丘にある小さな教会。
さすがに鍵がかかっているから、中には入れないので階段に座っている。
ここに来たのは中学以来。
ある人が教えてくれた秘密の場所。
空には星が輝き、辺りは静寂で包まれている。
あれからどれくらい時間が経ったんだろう?
すっかり暗くなっているから、時間は結構経過しているはず。
……今何時なのかな?
携帯で確認しようと、ポケットを漁ってみたけど探しているものは見つからなかった。
あ、鞄の中にしまったままだったんだっけ……
どうしよう、そろそろ家に帰らないきゃ。明日も学校あるし……
でも帰りたくない。
帰ったら、海が居るもん。そしたら絶対また思い出しちゃう。
そうでなくても、しつこいぐらい頭に焼きついてるのに――
自由に眠る事が出来ればいいのになぁ。そしたらその間は考えなくて済むもん。
痛みだした胸を押さえ、壁にもたれ掛かり目を閉じかけるがすぐにまた開いた。
誰かに名前を呼ばれたような気がしたのだ。
気のせいじゃないよね……?
「――音!!桜音!!」
やっぱ聞こえる。
誰かが私を呼んでいるらしく、その声がこの教会に近づいて来ている。
海……?――じゃないよね。
ここを知っているのは、一人しか居ない。
ここを私に教えてくれたあの人――
立ち上がり、声のする方向へと向かった。
「あの〜、涼?」
私を探していたのはやっぱり涼だった。
どうしたの?と聞くまもなく無言で抱き寄せられてしまい、今現在にいたる。
何度となく感じたことのある体温は少し高く、走ってきたのか耳に掛かる吐息も熱い。
もう二度と離さないとでもいうぐらいに腰に回された腕は、私を強く固定している。
「……良かった。やっぱここにいたんだな」
やっと発せられた言葉は弱々しいものだった。
もしかして私の事探してくれてたの?
「ごめんね、涼。もしかして迷惑かけちゃった?」
「桜音の事で迷惑なんてないよ。それより、あいつも心配して探してるから電話しないとな」
左手で私を抱きしめたまま、右手で制服のズボンから携帯を取り出すと誰かに電話をかけ始めた。
「桜音いたよ。――ああ、大丈夫。は?来る?ここに?駄目、教えない。ここは俺と桜音の秘密の場所だから」
誰としゃべってるんだろう?
口パクでダレ?と聞くと、海だよという答えが返ってきた。
えっ!?海!?
「今から桜音を家に送るからそのまま――」
「嫌っ!!家には帰りたくない!!」
涼の言葉を遮り、大声でそれを拒絶すると涼は目を大きく開いた。
「どうした?家に帰りたくないのは、海のせいなのか?」
首を縦にコクンと動かし、涼の制服にしがみついた。
やだ。会いたくない。
「わかった。それじゃあ、家においで。うちは桜音の事いつでも歓迎しているから」
「だめだよ。迷惑かけちゃうもん!!」
「さっきも言っただろ?桜音の事で迷惑な事なんてないって。それに、お袋達も桜音に会いたがってる」
でも……
「――というわけで海、桜音は今日俺の家に泊まるから。じゃあな」
そう言って涼は携帯の電源を落とし、ポケットにしまい込んだ。
なんで電源ごと切ったんだろう?
そのうち桜音と涼の過去編とかもかけたらな〜と思ってるんですけど、なかなかタイミングと文章力が……(-_-;)
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました!!




