第五話 突然のお誘い時々奇妙な笑い声
「えっ……本当ですか!?ぜひ行きたいです!!」
あまりに勢い良く返事をしたせか、電話の相手は笑いを堪えているらしく声が漏れてくる。
だってこんな誘い滅多にないんだもん。
「はい。海と一緒にいきます。――では、明日取りに行きますね。はい、失礼します」
携帯をたたみポケットに入れると、一刻も早くこの事を話す為に急いで体育館の方向へと急いだ。
早く土曜になんないかな〜
体育館ではバスケ部とバレー部がコートを半々にして練習していた。
えっと、海は何処?
目立つからすぐにわかるのに、今日はなぜか見つからない。
まさか居ないの!?早く言いたいのに!!
「あれ?逢月さん」
声をかけられたので、後ろを振り向く。
「木下君」
そこには木下君がドリンクを持って立っていた。
木下君とは中学が一緒の上、部活も一緒だった。
私が男子バスケ部のマネージャーで、木下くんは部員。
そのため、お互い顔見しりだ。
「涼だね。呼んでくるよ」
「ううん、違うの。海どこにいるか知ってる?居ないみたいなんだけど……」
「在原?涼じゃなくて?」
不思議そうな顔をしながら、確認を取った。
たぶん私がここに来る時は、涼ばっかりだったから驚いているんだと思う。
それに、よりにもよって呼んだのが海だったし。
どうやら木下君の話だと、外の水道に顔を洗いに行ったらしい。
さっそく行ってみるとTシャツに部活用の黒いジャージ姿の海が、タオルを持って体育館に戻ろうとしている所だった。
居た。
「海っ!!」
視界に入ると飛びつくようにして抱きつき、そのままギュッと抱きしめた。
海は固まったまま動かず、私のされるがままになっている。
「さ、さく…ら……ね?」
かろうじて吐き出された言葉は、とても小さくかき消えそうだった。
抱き止める為にまわされた片手には力が入ってなく、ほとんど地面に踏ん張るようにして受け止めたんだろう。
正常な私なら、こんな事しない。絶対に。
この時はただ、水族館に行ける事が嬉しかったんだ。
「聞いて聞いて!!あのね、さっき啓吾さんから電話があったの。隣町に新しい水族館が出来るの知ってる?そこでね関係者だけオープン前日に入れるらしいの!!それで招待状貰ったから土曜に海と行って来たらって!!」
電話の内容はオープン前日の土曜に関係者だけに中を解放するので、私と海に行って来たらどうだ?というのだった。
関係者といっても堅苦しいものじゃなく、職員の家族とかもくるから私でも大丈夫だから安心して楽しめるらしい。
人目を気にせずゆっくりと見てまわれるなんて嬉しすぎる。
水族館大好き。あの水面のキラキラ感、色鮮やかな魚、それにイルカショー……楽しみ〜。
馳せる思いに、思わず隠しきない笑みがこぼれおちる。
「ねっ、すごいでしょ!?人も少ないしゆっくり出来るんだよ」
さっきから全然反応が無いんだけど。
私ばっかりしゃべってるじゃん。
「ねぇ、海?聞いてる?」
うれしくないの?嫌いなのかな?水族館。
一人興奮気味にしゃべってたから、海の様子がおかしい事にまったく気付かなかった。
「ちょっと、顔赤いよ!?もしかして具合悪いの?風邪?」
海の顔は、私がからかわれて赤くなるのと変わらないぐらい赤くなっている。
私と違って顔色なんてあまり変わらないはずのに。
「……え、あ」
そういえば、さっきからまともに会話が成り立ってない。
熱でもあるのかな?
背延びをしておでこに手を当ててみると、少し熱いような気がする。
でもこのくらいなら大丈夫だと思うんだけど……
念のため保健室で測った方がいいかも。
保健室に連れて行こうとしたら、変な笑い声のせいでそれが出来なかった。
「あひゃひゃひゃ。あ〜腹痛ぇ〜。逢月、お前最高!!」
この声、絶対あの人だ――