第三章 第一話 二人一緒
目の前に広がるのは、大小さまざまな大きさの箱と、それを包んでいた色とりどりの紙。
海がその光景を腕を組んであきれ顔で見ている。
その一方私はというと、まだ未開封の箱を開けていた。
あっ、これ紅茶のセットだ。
あとで焼き菓子と一緒に飲もうっと。
「お土産本当にいっぱい持ってきてくれたね」
「買ってき過ぎだろ。これは」
これらは全部ハネムーンから戻ってきた啓吾さん達が買ってきてくれた物。
海と一緒に暮らしてなんだかんだで、一か月以上経とうとしている。
思ったよりも海との生活は大丈夫だった。
だって家事も手伝ってくれるし。
どうやら私に負担がかからないように気を使ってくれているらしい。
以外と優しいのかも。
「海は何貰ったの?」
「パジャマとか、本とか実用性のある物ばっかだな」
箱と包装用紙を片付けながら、海は言った。
本ってやっぱ、日本語じゃないやつだよね?読めるの?
「海って英語話せるの?」
「日常会話程度しか話せない」
それ、十分だと思いますけど。羨ましすぎる。
「英語だけ?」
「フランス語とイタリア語なら少し」
「……海って何者?」
容姿端麗、運動神経抜群、頭脳明晰、その上金持ちとくれば向かうところ敵なしって感じがする。
弱点とか無さそう……
「桜音?」
海が怪訝そうに名前を呼ぶ。
弱点を探そうと、ぼーっとしてしまっていたようだ。
「あっ、パジャマなら私も貰ったよ。黒いやつなんてあるんだね」
「――黒?」
「うん。ほら」
たしかこの箱だったよね。
数個積まれた箱の中から、中ぐらいの箱を取り出す。
それを開け、中からパジャマを広げて海に見せた。
「ねっ?」
それを見ると海は無言で携帯から誰かに電話をかけ始めた。
まもなくその人物が出たのか、大声で
「一体何を考えているんだ!?」
と怒鳴り出しはじめた。
「笑うな。は?他意はない?んなわけあるか。明らかに遊んでいるだろ!?」
しばらく何か話したあと、海は舌打ちをして電話を切るとソファに携帯を放り投げた。
眉をしかめ頭を抱えている。
「あの親父……」
一体どうなってるんだろう。
「海?」
そっと海の腕に触れ、話しかけた。
「桜音と俺のパジャマが一緒なんだよ……」
「は?」
ほらと言いながら海は箱を差し出してきた。
その中身は――同じだ。
襟元の白ラインも、胸元にあるこの服のブランドロゴも何もかも。
……って事はお揃い!?
私が自分の親に貰ったものなら怒れるけど、啓吾さんじゃ話が違う。
「桜音、どうする?」
「せっかく頂いた物だし、黒いパジャマ持ってなかったから着たい」
わざわざ選んでくれたんだし、一回は袖を通さなきゃいけないような気がする。
「わかった」
「海が着るなら、着ないから安心して」
「なんでだ?」
「だって私とお揃いになるんだよ。それじゃ嫌でしょ?」
「誰が言ったそんな事」
電話口で怒ってたじゃんか。
「いいの?一緒でも」
「桜音はいいのか?俺と同じでも」
私が聞いたのになぜか質問で返されてしまった。
返事の代わりに首をコクンと縦に動かす。
良いも悪いも今回はしょうがないもん。
「桜音がいいなら、俺もいい」
という理由で今夜から海とお揃いのパジャマを着る事になった。
この時の私はまだ実感していなかったんだ。
自分と同じ服を着た海を見た時の、あの気恥ずかしさを――