間章 鬼ごっこ
(海視点)
番外編みたいな感じで。
「あいつ何してんだ――」
コール音がただ続く携帯に耳を当てながら、誰もいない廊下を歩く。
放課後ともあって人がいない。
これが毎日ならどれだけ楽だろう。
勝手に写メる奴もいないし、うるさい声も聞こえない。
この間、日下部に桜音の存在がバレた。
思った通りうっとおしいぐらい人の恋愛に口を挟んでくる。
何処が好きだとか、どうやって知り合ったんだとか……
これが嫌だから隠してたというのに。
その上俺も協力するから、日下部と先輩の中をとりもてとまで言い始める始末。
今日第一回目の作戦会議を開く!!なんて言って意気込まれた揚句これかよ。
「帰るか」
簡単なメールで先に帰る事を伝える。
これ以上一秒たりともあいつの為に無駄な時間を過ごしたくない。
家に帰って桜音と話がしたい。顔が見たい。
会話って言ってもまだ沈黙になる時があるし、当たり障りのない話だけど前よりは進歩したと思う。
そう言えば、最近写真部の話を聞くな……
一応日下部に釘刺して置いたが。まあ、要らぬ心配だろう。
あいつは、先輩命みたいなところがあるし。
「海!!」
後ろから桜音に呼び止められた。
校内で目立つのが嫌らしく、普段はあまり学校で話さない。
桜音に話しかけられるのが嬉しく、自然と笑みがこぼれる。
走ってきたのか顔が薄らと赤く、肩で息をしていた。
「日下部君こっち来てないよね?」
「――来てない」
「良かった」
ほっと胸をなでおろし、安堵の表情を見せる。
せっかく話しかけてくれたのに、日下部の事なんて俺としてはあまりおもしろくない。
「よしっ!!あとはこのまま昇降口に行けば大丈夫」
「どうしたんだ?一体」
「日下部君に追われてるの。これのせいで」
そう言って右手に握る携帯に視線を移す。
それには俺が親父名義でやったホワイトデーのお返しのクマのストラップがついていた。
気に入ってくれているらしく、とても大事にしてくれている。
「日下部君が私の携帯にある宮代先輩の番号とアドレス教えろって。
私先輩に口止めされてて……なんか教えたら毎日でも掛けられそうだから嫌なんだって。
それで無理って言ったら、実力行使だ!!って携帯とられそうになったから走って逃げまわってたの」
あ〜、なるほど。それは喉から手が出るほど欲しいはずだ。
しかしあいつは無理やり聞き出し事を知られて、株が下がるとか考えないのか。
でも真っ直ぐな所は羨ましいと思う。
あいつは伝えたい事を素直に言える。
それに引き換え俺は――
「桜音……一緒帰ろうか?」
「ええっ!?」
顔を真っ赤にして、パニックを起こしている。
きっと普段の自分なら言わないだろう。
少し日下部に感化されたのかもな……
一緒に帰ろうって言っただけでこれなら、告白したらどうなるんだろう――
苦笑いをせざるを得ない。
「気をつけて帰れよ」
無理だと判断するまでもなく、俺はそのまま昇降口へと向かったーーはずだった。
それはブレザーを引っ張る手によって遮られた。
「……途中からでいい?」
一緒に帰ってくれるって事なのか?
顔色を伺おうにも、俯いて見えない。
どうしてだ――?
好かれているとは思っていない。その逆はあっても。
涙目で顔を赤くして抗議する桜音の反応が楽しくてからかっていると、私の事嫌いなんでしょ!?と言われたぐらいだ。
「途中からでもいい。一緒帰ろうな」
誰かに見られるのを怖がっているんだろう。
勝手気ままに噂を流したり、俺に近づいてくる奴をけん制しているやつらがいるから。
「スーパー寄っていい?」
「ああ。今日の夕飯は何だ?」
「えっとね――」
「逢月何処だ〜!!」
野太い声によって、俺と桜音の会話は遮断された。
……これは近いな。
日下部の声が二階から聞こえる。
しかし厄介だ。
ここは階段下だから、降りてくるのも時間の問題。
「ちょっ。まだ追いかけてたの!?ごめん、やっぱ先帰るね!!」
「おい、桜音!?」
そう言って、桜音は走って昇降口へと向かっていった。
「逢月頼む〜携帯〜」
叫び続けながら、階段をドタドタと降りてくる音が聞こえる。
おい、この声の主。俺の邪魔して覚悟は出来てんだろうな?