第六話 彼女のフリって!?
「何で……?」
「ちょっと確かめたい事あってさ。俺のダチに逢ってくれ」
突然告げられた言葉に、頭が上手く回らない。
彼女ってどういうこと!?友達って誰!?
「他の人にあたってよ」
「お前じゃなきゃ無理」
「どうして?」
「とにかくすぐ済むから頼む。五分もかからない」
そう言って日下部君は、目の前で手を合わせる格好をしてきた。
そこまでして確かめたい事って何だろう?
「な?頼む」
とは言われても、嫌なものは嫌。ここは、逃げるべきか……
なんて事を考えてると、目の前にピンクの物体が現れた。
「逢月これ何だ?」
「携帯」
目の前の物体の名称を簡潔に告げる。
それは最新式のピンク色の携帯だった。
ストラップにはスワロフスキーで彩られたクマがついている。
へ〜、私の携帯と同じ――ってそれ私のじゃん!!
「それ私の!!」
いつの間に……
帰してよと携帯に手を伸ばすと、手を空高く上げられてしまった。
身長差的に届くわけない。
「返して欲しかったら、わかるよな?」
それ脅迫っていうんだよ……
「なんでそんな機嫌悪いんだ?海」
隣に座り私の肩に手を回している男は、ニヤニヤしながら真向かいに座る人物に言葉を投げかける。
「どういうことだ、これは?」
眉をピクつかせ、海は目を細め日下部君を睨みつける。
その様子の何がおかしいのか、日下部君は笑いだすと海の空気がますます重く突き刺さる。
帰りたい。
目に見えないブリザードが吹きすさぶ中、私はただ切実に思った。
私が連れてこられたのは、駅近くにあるファミレス。
時間と立地条件のため、店の中は学生で賑わっている。
窓際の一番奥の席に日下部君の言っていた友達がいた。
まさか、それが海だなんて――
「別に?友達に彼女を紹介しているだけだけど?」
「ふざけるな。桜音がお前なんかと付き合うわけないだろ」
「お前なんかって酷くね?悪いけど、俺達さっきまでデート中だったから。な?」
デートじゃないと思うけど、テーブルの下でチラつかせられている携帯を見ると否定出来ない。
とっとと彼女のフリでも何でもして帰りたい。
「うん。写真綺麗だったね」
引きつる顔に無理やり笑みを浮かべ答えると、海の瞳が揺れた。
「何時からだ?」
いつから付き合っている事にした方がいいんだろう?さすがに今日からじゃあね。
とりあえず答えに困ったので日下部君に視線を移す。
日下部君は相変わらずニヤついている。
「何〜?気になんの?」
「女とっかえひっかえしてるやつが、桜音と付き合うのが嫌なんだよ」
女とっかえひっかえ――
「……ってちょっと日下部くん!!まさか宮代先輩の事も!?」
「アホか、お前は!!先輩の事はマジだっうの!!じゃなきゃ馬鹿見てぇに学校なんか来て、部活なんてダルい事するわけねぇだろ。
大体遊びならわざわざあんな難攻不落のとこにいかない。カメラが恋人って……もう人じゃねぇし……」
そう言って、頭を抱え込んでテーブルにふせってしまった。
「桜音を使って俺をからかおうとしたらしいが残念だったな。日下部」
私と日下部君は、海の方をみると口元を上げ笑っている。
「別にからかおうなんて四割しか思ってねぇよ。ただ確かめたかっただけだ」
「ねぇ日下部君が確かめたかった事って何だったの?」
「お前この流れでまだわかんねぇの?」
あきれ顔で溜息を吐くと、私の頭を軽く叩く。
「海。お前もやっかいなとこいったな」
「まあな」
海は苦笑いでそれに答えていた。
今日は本当にいろいろあったな……
夕飯作ったら、ゆっくり休もうっと――
「あ、でもな。こいつとデートしたのは本当だぞ」
この日下部君の一言のせいで、私は家に帰ってもゆっくり休む事は出来なかった。