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合鍵  作者: 歌月碧威
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第五話 展示会

「そんな身構えるなって。別に取って食ったりしねぇから」

私の一歩前を行くその人は時間通りに現れ、一緒に展示品を見ている。

名前も知らない今朝会ったばかりの人間に、警戒心を抱くなって言う方が無理だと思うんですが……


写真を見たりするのは、好き。

行ったことや、見たことのないものを間接的だけど見れるから。

うちにも海外の写真集とか数冊あって、たまに見ちゃうんだよね。


……なのに、楽しみたいのに楽しめない。

涼に話して、着いてきて貰えば良かったのかもしれない。

そしたら心強いのに。



「どうしてチケットくれたんですか?」

展示物もちょうど中盤にさしかかった頃、意を決して聞いてみた。

無意識に鞄を握る手に力が入る。

「あ〜、それはもうチョイ待て」

こっちを見ず、けだるそうに答えられてしまった。

はっきりとした解答を聞けず、うやむやな気持ちが残ったままで気持ち悪い。


沈んでいく気持ちに耐えられなくなってしまった私は、途中から鑑賞するのを止めてしまった。

ひたすら足元だけを見ていく。

そのため前を歩く人が立ち止まったのにも気づかず、ぶつかってしまった。


「――っ。ごめんなさい」

鼻ぶつけた〜。

擦りながら顔を上げると、ある一枚の写真の前で止まっていた。

「この写真――」

これって、私が学校で見ていたやつ。あの女の子が笑っている写真だ。

「これ、俺が初めて撮った写真なんだ」

――え?

ちょっと待って、これ日下部香織さんのじゃ……

明らかに、隣にいる人物は男。

というか、写真部!?どう見ても帰宅部じゃん!!


「やっぱ、女だと思ってたか?」

首を縦に何回も振る。だって香織って……

「まぁ、よく間違われるからな。親が男でも女でも通じるような名前で、香織ってつけたらしい」

「そうなんですか」

というコメントしか出てこないよ。


「俺お前と同じタメだから、敬語とかウザいからいらねぇ。それとさっきの答えだけど、

撮った写真を気にいって貰ったみたいだったから、その礼代わりに呼んだわけ」

「なら、早くそう言って……」

こっちは頭の中混乱してたのに。


「半分はな」


ん?『半分』って言った?

体のこわばりが少し抜けたと思ったのに!!

「ちょっと待って、半分ってな――」

「おや、うちの学校の子だね?」

覆いかぶさるように声がして、私の話は途中で遮られてしまった。


誰……?

日下部君の少し後ろの方に、うちの制服を着た人が立っているのが見える。

髪は耳が出るまで短く、背は高めで細み、腕に写真部と書かれた腕章をつけていた。

一瞬男の人って思ったけど、どうやら違うみたい。

スカート履いてる。


「部長」

日下部君は目を輝かせ、その人の所にいくと犬みたいにその人の周りを纏わりつき始めた。

「言っておきますけど、この女とは何の関係もないんで。俺は部長一筋ですから」

「そんな事、どうでもいい。邪魔だ」

その人は日下部君に臆することなく冷たく吐き捨てると、私の前に立った。

日下部君のさっきまでのイメージが消えた……

だって、全然キャラが違うんだもん。


「初めまして。部長の宮代明良みやしろあきらです」

「あきらさんですか……?」

「男みたいだろ?部長と俺、名前交換したらちょうどいいのにな」

「私が香織って感じがするか。それで、君は?」

部長は冷めた視線で日下部君を一瞥すると、私へ柔らかな笑みを見せた。


あ、名乗ってなかった!!

「二年の逢月桜音です」

部長さんに言われ、急いで名前を告げる。

「部長相変わらず女には優しいんですね」

「何か勘違いをしていないか?お前以外には優しいの間違いだろう」

なに、この二人の温度差……

とりあえず、何か話題を――

微妙な空気の差から逃れるために口を開く。


「あの、宮代先輩の写真もあるんですよね?」

「ああ、こっちだ」

先輩の写真はほとんどが水中で撮った写真だった。

「綺麗」

色鮮やかな魚とサンゴ。

水族館の水槽を眺めているみたい。


「気にいってくれたかい?」

「はい、とっても。海の生き物が好きで、よく子供の頃お兄ちゃんに水族館に連れて行って貰ったんです」

「ダイビングが趣味でな。他にもいろいろあるぞ。良かったら今度部室に見に来ないか?」

「行きます!!」

私はその後、宮代先輩の案内でいろいろ見て回った。

先輩に放置され、後ろをトボトボついてくる日下部君が気になったけど……





「楽しかった〜。今日はありがとう」

「そりゃ、何よりで」

ずっと中にいたから、やたら外の空気がおいしく感じる。

先輩と途中で別れてから、日下部君はどうやら復活したらしく元に戻っていた。


「それじゃ、バイバイ」

手を振って帰ろうとしたのに、腕を掴まれて動けなくなってしまった。

え?何?


「おい!!お前、まさか帰るんじゃないだろうな?」

だって、そろそろ帰らないと夕飯の支度が。

市民ホール前の大時計を見ると、五時を少し過ぎた所だった。

「俺の言ったこと忘れたのか?あとの半分が残ってるだろう?」

あ。そういえば、そんなことを言っていたような……

「何?私そんなに時間ないよ」

日下部君と向き合うように体を向けると、手を放してくれた。


「すぐ済む。今から俺の彼女のフリをしろ」


――はぁ!?











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