拍手まとめ
☆飛躍しすぎだってば
公園のイチョウ並木が黄色く色づいた季節とあって時折吹く風が冷たい。
今日は海の部活が休みのため、放課後公園デート中。
何処か温かい屋内でもと思ったけど、幸い太陽が出ている日中はコート着用していれば十分温かいから外平気。暖を取るため温かいココア缶を手に、私と海は空いているベンチへと座っていた。
「えっ? 海に弟か妹が出来るの!?」
「あぁ。みちるさんが妊娠したらしい」
隣に座る海は嬉しそうにはにかんだ。
海って面倒見よさそうだよね。連都の面倒も見てくれるし。
きっといっぱい可愛がるんだろうなぁ。
「どっちだろうね、男の子か女の子かなぁ? 海は弟と妹どっちがいい?」
「どっちでもいいな。俺、一人っ子だから弟妹が出来る事自体が嬉しいんだ」
「そっか」
私は海に微笑んだ。
「桜音はどっちがいい?」
「どっちでも元気に生まれてくれれば嬉しいよ」
「そうだな。俺もそう思う。きっと桜音に似てどっちも可愛いんだろうな」
「は?」
ちょっと待って。
なんで私がそこで出てくるの……?
私が産むんじゃなくて、みちるさんが産むのに。
「海、なんの話しているの?」
「ん?俺と桜音の子供の話」
「ええっ!?」
危うくココア缶を落としそうになってしまう。
私と海の子供!? まだ高校生なのに!!
どれくらい未来の話をしているのだろうか。
「いっぱい欲しいよな」
「まだまだ先だよ!!」
というか、かなり先! まだ高校生だから、まだまだなのに。
「んー。そうだけど、まだまだというわけでもないだろ。だからといってすぐというわけでもないけどな。数年後の話だ」
「飛躍しすぎだってば……」
その時は思いもしてなかった。
まさか私が海との間に五人の子供をもうけ、その一番下の子供『のあ』と水谷家長男――涼の子供『翔くん』とのお付き合いを巡り、海がお兄ちゃん以上の門限等により厳しくしてしまう事を。
☆ 『他所は他所。うちはうち』
……これはやばい。
血の気が引きそう。いや、もう引いちゃっている。
頭がくらくらとして、背中をつぅっと汗が伝ったから。
私をこんな風にさせているのは、テレビ画面に映し出されている映像。
何も苦手なホラー映画とかではないよ。
私が見ているのは、一般のカップル数組がトークを繰り広げるというバラエティ番組なの。
今画面に映っている二人は、見つめ合うたびキスをするというルールがあるんだって。
それを見てどうしてこんな反応をするのかって、それは決まっている。
これを見ているのが、海と一緒だから。
しかもソファに座る海の上という、距離感ゼロで私の腰には海の腕が。
今日は海のマンションでお家デート。
見たいドラマの再放送があったので、つけたらたまたま偶然この番組がやっていた。
後ろがものすごく気になる。
もうこの後の流れが予想は付くけど、抗いたい。いや、抗ってみせる!
「桜音」
名前を呼ばれびくりと体が大きく動く。
「俺たちもあのルール採用しよう」
うっ……やっぱりそうきたっ!!
「よ、余所は余所。うちはうちっ!! ほら、やっぱり人それぞれ違うでしょ? それにあのルール採用したら、私は海と目を合わせられないよ」
現に私は今正面を見て、海の顔が見れてない。
見詰め合うたびキスなんて、心臓がずっと鐘のようになっちゃう。
「うちはうちか……なんて良い響きなんだ。たしかにそうだな」
おおっ。珍しく引いてくれた!!
……なんてのもつかの間。
海はとんでもない事を言い出したのだ。
「ルールなんて必要ないよな」
「そうだよ~」
よかった。
「俺たちにルールは必要ない。それに、見詰め合わなければ桜音とキスできないなんておかしいよな」
「ええっ!?」
待って。待って。待って。
なんでそっちに行くの?
慌てて体を斜め後ろに捻って顔を上げれば、頬にちゅっとリップ音つきでキスされた。
かと思えば、今度は唇に。
――やっぱりこうなったっ!! ただでさえキス魔の海がますますキス魔に!!
今度は熱にうなされ、頭がくらくらする。
今度から新聞の番組欄チェックしよう……
雨のように降り注ぐキスに、私はそう決心した。