番外編 プールへ行こうっ!! 後編
試着室から出てプールの入り口に行くと、すぐに海達は見つかった。
暑さでプールのすごい人混みだけど、こういう時でも海はわかる。
女の子達に囲まれているから。
だから、すぐに見つける事が出来るの。
いつもならどうしようか迷っていると気づいた海が私の元へ来てくれるパターン
の方が多い。でも、今日はみくがいる。
みくによりその女の子達を蹴散らし、すぐに合流出来たの。
「どうよ?桜音の水着姿は?」
「み、みくっ!!」
私の両肩にみくの手がのせられ、海の前へと差し出されている。
海の水着は水色地にサイドに白で英字と獅子なのかライオンなのか、どっちだかわからない
動物がプリントされたトランクスタイプ。
一方日下部君はトロピカルな柄の水着。
早くもアイス片手にして、辺りをキョロキョロ見回している。
誰か探しているのかな?それとも、このプール施設が初めてなのかな?
「ほら、ほら」
「ちょっ!!近いんですけど!?」
みくが私の事を押すから、海との距離が異常に近い。
人一人入れるか入れないかという具合だ。
近い!!近すぎるよっ!!
ついさっきまで自分のビキニ姿に恥ずかしくなってたけど、
今はそれ以上に海の事が恥ずかしい。
だって、水着だよ!?
うん。プールに着たんだから水着になるのは当然だけど、でも――
お兄ちゃんや涼と何度もプールに着たことあるから、男の人の水着姿が
初めてっていうわけじゃない。でも海は違った。
うぅ……どこに視線を向けていいんだろ……
普段服で隠れている鍛えられた腹筋とか見えちゃっている。
細いなぁって思ってても、脱いでみると筋肉質というか、
やっぱ男の人だなぁって。
どうしよう。この過剰反応が海にバレて変に思われちゃったら……
「ちょっと、何か言ったらどうなのよ?まさか、可愛くないとでも?」
「違っ!!」
妙にうわずった海の声にみくが喉で笑う。
「桜音はただでさえ可愛いんだ。可愛くないわけがないだろうが」
「なんだ、桜音の水着でエロい事考えてたムッツリが。偉そうに」
「辞めろ。桜音の前で変な事言うな!!ただ、あこがれの桜音の水着姿だったからつい思考
が……その上、ビ、ビ、ビキニなんて……可愛すぎるし、色気が……」
「どもんな。キモイわ~。変態」
「そういうこと言うなって言っただろ!!」
あー。また始まっちゃったよ……
海とみくはまたまた私を挟んで口論をし始めてしまった。
みくも海も双方睨みあいながら、口喧嘩が勃発してしまっている。
この二人、時々こうなっちゃうんだよね。
「日下部君――……って、何時の間に」
助けを求めて彼を見たのに、日下部君は呑気にカキゴオリを食べていた。
日下部君が着用しているトロピカルな水着にも負けずに、カキゴオリには傘やポッキー、
それにスイカなどのフルーツがのっていてこれまたトロピカルな感じ。
「お前も食うか?」
「うん」
差しだされたカキゴオリを受け取ろうとしたら、後ろから伸ばされた手に私の手が
がしっと掴まれてしまう。
「あ」
「――日下部!!俺の桜音といちゃつくな!!」
どうやらこの手は海だったよう。
「桜音。カキゴオリなら俺が新しいの買うから!!そっち食べてくれ」
「えっ!?いいよ!!泳いでから食べたいから、一口だけ日下部君に貰うから」
「駄目だ。日下部が使ったスプーンじゃないか!!」
「え、うん。そうだね」
付属のスプーン以外って見当たらないし。
首を傾げて海を見つめていると、今度はみくの鼻で笑った声が耳に届いてきた。
「うわー。こいつ、ドリンクの回し飲みも間接キスとか言いそう~」
「当たり前だろ!!」
「あんた、高校生でしょ?」
「高校生だからなんだ!?間接キスは間接キスだろうが」
再度始まったみくと海の第二バトル。
それを見て、思わず頭痛がした。
まだプールに入ってないのに、これって……
「どうしよう。日下部君」
「放っておくしかねぇだろ。止めらんねぇし。それより、どうすんだよ。食うのか?」
「食べるっ!!」
だって日下部君の言う通りなんだもん。
みくと海がこうなっちゃったら手がつけられない。
自然に収まるのを待つのが一番。
カキゴオリ食べて少し様子見ようっと~。
そう思って手を伸ばした瞬間、女性の怒号が耳に届いてきた。
「――人魚姫知っているのに、なんで私の事をジュゴンで例えたんだっ!?」
は?ジュゴン……?
私と日下部君はお互い動きを止め、その声のした方向へと視線を向けた。
そこは私達がいる場所・プール入口のゲート左から、その反対側のちょうど右下部分。
柱の下に、四人の男女の方から聞こえて来たよう。
思いのほか周りに響いたらしく、周りの人々の支援を彼らは受けている。
「なんだろ?喧嘩かな……?」
ミントグリーン地にドッド柄のビキニを着ている人が、長身の男性の両腕を掴み前後に激しく揺らしながら、
「魔王はいつもいつも!!」とか言っている。
――魔王って、なんだろ?
突然出て来たジュゴンもわかんないけど、魔王というフレーズも不思議。
あだ名か何かかな?
ただ、ちょっとあの二人どっかで見た事あるような気がするんだよね。
どこだったか、覚えてないけど……
「なんだ、あれ。外人モデル集団か?」
「やっぱモデルさんなのかな?みんな美男美女だよね」
「あぁ。しかし、男の方身長高ぇな」
「うん」
男の人の身長は、海ぐらいかそれ以上なので180㎝以上は確実に超えていると思う。
それを私より少し上ぐらいの――160㎝ぐらいの人が相手しているため、身長差が気になる。
それらを黒いビキニの女性と、空色の髪をした男性が見ているという構図だ。
「あの巨乳姉ちゃんに遊んで欲しいー!!」
「く、日下部君っ!!」
日下部君が言っている人はすぐにわかる。
だってあの黒いビキニ姿の人、日本人離れした顔立ちとスタイルなんだもん。
手足長いし、胸おっきくて羨ましい。グラマラス体系ってやつ。
その人は頬に手をあて、目の前で起こっている事に首を傾げていた。
「いやだってそうだろ。見ろよ。あの豊満ボディ。フェロモン出まくりだぜ。
あんなの滅多に見れねぇぞ。……ただ、一人浮いているのいるが」
「ちょっと、日下部君っ!!」
「いや、だって実際浮いているだろ」
「浮いてないよ!!」
「浮いてる。っうか、あいつらが整いすぎなんだよ。あの集団なら俺だって浮くし、
お前だって浮くだろ。海とか佐々木は浮かねぇけどよ――……って、氷解けかかってるじゃんかよ!!」
日下部君が手にしているカキゴオリは、解け始めて氷河と海みたいになっちゃってる。
「ほら、逢月。食うならは――」
「食わせるかっ!!」
「え?」
突然割ったその声に対し、日下部君は深いため息を吐き出した。
「お前はすぐそうやって隙あらば俺の桜音といちゃつく。桜音は俺のだ。渡さない」
急にがしっと後ろから抱きしめられたため、背中や触れている部分から自分以外の体温を感じる。
ええっ!?ちょっと待って!!水着なんだけどっ!?
頭に血が上りすぎて、ちょっとくらくらしてきちゃってるよ……
衣服という遮る物がないため、何もかもが直。
体温も感触も――
「いちゃつくの意味がわからない。俺にだって選ぶ権利があるだろ……」
「選ぶ権利ってなんだ!?俺の桜音にケチつけるのか!?」
「お前さ、ほんと逢月関わるとメンドイな。あと、うざい」
頭上で繰り広げられる会話をBGM代わりに、私は汗だらだらの意識がくらくら状態。
まるでサウナの中のよう。
意識しなければいい。そう何度も呪文のように繰り返し頭に指令を送るが、
『するな』は『やれ』と同じなのか、どうしても意識がいってしまっている。
だ、誰か……
数秒後みくが助けてくれるまで、私の思考は熱にうなされていた。
久々の合鍵でしたー。
タイトルがプールへ行こうっ!!なのに、プールに入ってない^^;
合鍵をお気に入りに入れて下さっている方ありがとうございます<(_ _)>