もう一つの合鍵をキミに 4
「……桜音。どうした?」
ほんの数秒間の出来ごとだと思っていたら、以外に結構間があったみたい。
海が不審に思ったのか、私の頬に海の手を添えられ顔を上向きにされていた。
あ……ちょっと考えすぎちゃったかな。
「ううん。なんでもないよ。あのね、来年も一緒にお祝して欲しいなって思ってたの」
とっさに出たその言葉。
これは決して嘘なんかじゃない。
今はたしかな保障なんてないけど、ただその言葉だけが欲しい。
「当たり前だ。来年だけじゃない。この先もずっとずっと俺は桜音の誕生日をお祝いするぞ。出来れば一番におめでとうを言いたいけどな」
「え?海、朝一番の電話で言ってくれたよ?」
私、朝方に生まれたから朝起きた時には、もう自分の誕生日が過ぎている。
だから、朝起きて一番に聞いたのが海だった。
モーニングコールってわけじゃないけど、海からの電話で起きたから、一番は海だ。
「ちがうよ。こうして顔見てちゃんと言いたいんだ。那智さんは泊まりすら許してくれないから、同棲なんてたぶんもってのほかってタイプだろ?やっぱり、顔見て言えるようになるのは結婚してからかもな。大学出て社会人として桜音を養えるようになってからだから、やっぱ長いな……」
「結婚してから……?」
「あぁ。那智さんだって、結婚してから桜音と一緒に住むのに文句言えないさ。結婚自体は反対されるかもしれないが、そこはなんとか通いつめて理解して貰うよ。幸いな事に桜音のご両親にはもう許可貰っているし」
「……は?」
「知らなかったのか?大分前だぞ。桜音と付き合った事を報告した時だから。もしかして、言ってなかったか?」
その問いに首を左右に大きく振りまくった。
聞いてないし!!お父さん達も何も言ってきてないし!!一言言ってよっ!!
お父さん達、どうとらえたのかな?もしかして本気にしてないとか?
それとも私と同じようにまだ高校生だからとか思っているのかな……
どちらにせよ、聞いてないということには変わりない。
「それでな、桜音。本当は指輪にしようかと思ったんだが、やっぱり指輪は本番にして欲しい。だから、これを――」
海はズボンのポケットから何かを取りだすと、私の手を取りそれを私の手を包むように片手を添えながら、私の手の平へとのせた。
冷たい鉄のような堅い感じがするその物体。
海の手が離れて見えてきたのは、アンティーク調の鍵だった。
「言っておくけど、これ誕生日プレゼントじゃないぞ。プレゼントは他にちゃんと用意しているから」
「え、うん。ありがとう」
「出来れば大切に持っていて欲しいんだ」
「うん、もちろんっ!!でも、この鍵何の鍵なの?」
「それはまだ秘密。俺が小さい時、母さんと約束したんだ」
「お母さんと?」
たしか、海のお母さんって海が小さい時に病気で亡くなられたんだよね。
いいのかな?私が貰っちゃっても……
「ねぇ、本当に私が貰ってもいいの?」
「あぁ。俺の大切な人は桜音だから――」
「ええっ!?」
思わず大声が出てしまい、口を押さえる。
うぅ……ここ学校だった。
幸いなことに、海と私しかいないけど。
「なんだよ、その反応」
海は眉を顰めながら私を見つめている。
「だって、大切って……私のこと……?」
「伝わってないのか?だったら、時間かけて伝えるぞ?俺がどんなに桜音の事を思っているのか」
「いい!!いいから!!」
やけに接近してきた海に、ちょっとした恐怖というか、身に危険を覚えたので少し後ろに下がって距離を取った。
「これ、使えるの?」
「もちろん。メンテナンスして貰っているからな」
「メンテナンス……」
呟き鍵を見るけど、海が言っている意味がわからない。
わけがわからずじっと見ていると、持っているものと同じ形状の鍵が目の前に差し出された。
「あ。同じ……?」
「あぁ。合鍵だからな」
「合鍵……」
確認するように呟くと、海が頷く。
「桜音。それちゃんと大事に取っておいて欲しいんだ。ちゃんと使う日が来るから」
「うん」
私は無くさないように、ハンカチを取り出し包み込んだ。
家に帰ったらチェーンでもつけて、ネックレスにしよう。
そうすればきっと無くさないだろう。
「ねぇ。でも、この鍵そもそも何の鍵なの?」
「まだ内緒」
「う~。ケチ」
「そのうち――もう少し未来になったら教えるよ。その時は、桜音が開けて?」
「だから、何を?」
「だから内緒」
急に意地悪になったのか、海は教えてくれない。
気になるじゃんか。
結局その後も海は教えてくれなくて、私がその鍵の秘密を知るのは、海の言葉の通り未来になってから。
それは私が在原桜音になり、二人で新居に引っ越した時のことだ。
また気まぐれに番外編を更新するかもので、その時はまた遊びに来て下さい。
では、ここまでお読み下さってありがとうございました<(_ _)>