どう足掻いたって悪は正義に負ける。
お久しぶりです! の方も、初めまして!! の方も楽しんでいただければ幸いです\(^o^)/
知らぬは無罪? 知らないことはしょうがない。
知らぬは罪? 知ろうとしなかった罪である。
もう何が罪でどれが罪ではないのか分からない───────
身体が痛い……。胸に突き刺さった黄金色に輝いていたであろう剣を見ながら呆然と呟く。見るといっても身体など動かせないのだから、目だけを動かして見るというかたちなので、剣の柄しか見えない。その柄は悪魔独特のまるで鴉のような真っ黒な血で染まっていた。その血は強く穢れということを表していた。
「やっと まおう を たおせた」
幼さを残した美少年が疲労困憊な顔をしながらぼそりと呟いた。
垂れ目な目尻も遥か昔に見た青く澄んだ海のような瞳も少年の優しそうな性格を表している。彼の金髪も血で濡れてなお、きらきらと輝いている。どこか神々しく感じるのは神の加護を受けているからか。
嗚呼、視界が霞んできた。私はもう、死ぬようだ。魔王である私は勇者の手によって。
───この世界は私を悪としたがる。やっていることは同じなのに……。
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私は第44代魔王、ロワ・ブラックである。この世界は子供向けの絵本の世界だと知っている。このことは皆知らない。従者に聴いてみたけれど、何を言っているんだろうと困った顔をした。
このことは私だけが知っているのだろうか? それとも魔王という称号を持つ者だけ? 新しい魔王が生まれたら前の魔王は死んでしまうから確かめる術はない。この城の本はとうに読み尽くしてしまったから本に書いてあるということもない。
私が知っていること、それはこの世界が絵本の世界だということ。そして私は悪だということ。このことが知識として頭に入っている。あくまでも知識で、けして前世などというあるかどうかも分からないような曖昧なものではない。
魔王である私は悪で、勇者であるこれから私を殺す人は善。これは与えられた知識。けれど、納得いかない。これは私自身の考え。
人を殺す悪魔は悪、悪魔を殺す人は善。同じように殺しているはずなのに。
「ぼく は ゆうしゃ である!! まおうめ、たおしてやる!!」
そう言って勇ましく現れた美少年。幼さの残る顔は怒りに染まり、頬は可愛らしく紅潮している。夜空に輝く数多の星のような金色の髪、そして、遥か昔に見た神秘的な海のような瞳。これらは神の加護による影響か、やたらきらきらと輝いている。
「よく来た勇者殿。そんなにカッカせんでも良いではないか。何をそんなに怒っている?」
「なに を そんなに 怒っているかだと? 今までの行動を思い返してみろ! 人間をおそって くい、村を はかい しただろう!? それを怒らずにいられるか!!」
金色の髪を振り乱しながら叫ぶ。その姿に込み上げてくるものがある。それは嘲笑である。こんなものがヒーローで善であると言うことを。
「ほう。人間を喰らい、村を破壊したと。ならお前たちがしたことを思い返してみるがよい! お前達が喰らっている肉は何だ? 悪魔である、魔獣ではないか!! 貴様等の村が壊滅したのは何故か? 我等にとっての聖地に入り込んだからではないか!? 貴様等の自業自得だ!」
思わず立ってしまった。冷静になるため、再び玉座に座る。
「けものと人はちがうっ! 聖地に入っただけで村を消すのはどうかんがえてもやりすぎた!!」
剣を抜き、切りかかってくる。しかし、それは私に届くことはない。身体に風を纏わせる。風で剣は飛ばされてしまう。
くるくると指先で宙に円を描く。するとそこから風が生まれ、竜巻が出来る。それを息でふぅっと勇者の方へ吹けばた竜巻は勇者の方へ移動する。
『あなた に まほう を切る かご を与えましょう』
鈴を転がすような美しい声が空から響いてきた。ほう、これが神という存在か。神は人だけに、いや勇者だけに味方し、魔王には悲惨な終わりを与える。
勇者は剣を握り締め、風を切る。その際、バチバチバチバチッと大きな音がして、火花が飛び散る。そしてさぁ……っと霧を晴らすかのように竜巻し消滅した。
「おお。すげぇ」
手に持った黄金に輝く剣を興奮したように見る。すげぇ、すげえと繰り返し喜ぶ。
魔法を切られてしまうのは私にとって大きな不利だが、けれど切るのに時間が少しかかる。それを利用すれば良い。
「かくごしろぉぉぉおお!!」
勇者は剣を振りかぶり、全力で玉座に座っているロワの元へと走る。
私の前には分厚く、大きなバリアを張る。このはバリアは守るための壁としての役割だけではなく、幻を映すことも出来る。
勇者には玉座に座って偉そうにしている私が見えるのだろう。しかし、私はバリアを張った瞬間に転移し、勇者の後ろにいる。
ドレスや指輪、ネックレスにあるダイアモンドを粒子の状態にし、それを剣の形にする。女のロワでも軽々持てる細身の剣に。
首を狙って刺す。いや、刺そうとした。しかし、かすっただけであった。こんなに近い距離で失敗するはずがない。それなのに……。
「うおっ。やべっ、これ 強運の かご が無けりゃ そくし だ」
それでも、首から血を流し、綺麗な金髪を赤黒く汚していた。
脚を強化し、勇者と距離をとろうと後ろに跳ぶ。その時隙が出来ていて簡単に斬られてしまった。それでも、身体をよじり、避けたから斬られたのはロワの腰まである、豊かな黒い髪と、これもまた黒いドレスの腰の辺りが斬られ、ドロワーズの白い布が少し見えてしまっている。
「さすが まおう……。その身体に きず一つ付けることが出来ないとは……」
それでも俺は勝つ!!と言いたげな挑戦的な瞳をロワに向けた。
それでも首という急所に怪我を負った勇者と髪とドレスしか切れていない魔王。どう考えても魔王が勝つ。しかし、勇者には神がいるのだ。勇者に激甘で試練など与えず、加護のみを与えるか神が。
『ゆうしゃ……、けがを負ってしまったのですね……。かわいそうに……。そして、このままではあっとうてきに ふりです。だから あなたに まりょくきゅうしゅう の かご を与えましょう』
淡い緑色の靄が勇者の傷口を隠し、靄が消えた瞬間に傷口も消えていた。
「まりょくきゅうしゅうっ!!」
高らかに告げれば私の躯から魔力が吸い取られる。どっと湧く、強い疲労感。とてつもない量の魔力が吸い取られ、この量は魔王の自分だからこそ耐えられるのであって、ただの悪魔であれば10分と生きてはいられないだろう。
黄金の剣を私の胸に突き刺す。魔力が無くなれば私は人間の女の子の身体能力とそうは変わりはしない。しかも、魔力を一度に抜き取られ、私は弱っていた。だから私は避けることが出来なかった。
黒いドレスに広がる黒い血。光沢のないドレスだが、刺された周りはてらてらと照明に照らされ光っている。躯を脚がもう支えられないらしい。ゆっくりと視界が回転し、背中が床に打ちつけられる。その際、振動でより深く刺さり、口から
「うっ」
と聴いたことのない自分の頼りない声が耳に届いた。
胸の痛みも消え去り、今はただ痺れだけをかんじている。
──────私はどうして生まれたのだろう? 勇者に殺される為に生まれたの? 人間と悪魔のしていることなど、根本的には同じことなのに。
何故、何故魔王は悪で勇者は善なの──?
久しぶりの性格の歪んでいない主人公ですね!!