期待
ー2ー
「えーと、座ったらどうかな、茜原さん」
名前を呼ばれてドキッとした。昨日までの案件のせいと、この男の話がくだらないせいだろうか、つい寝てしまったようだ。
とはいえ悪いのはこちらの方だ。茜原巴は正直に謝った。
「ん、ごめん寝てた」
その言葉にギャーギャー噛み付いてくる、ええと、そうそうローレンとか言ってたか。
「失礼、追い出しましょうか?」
隣にいる殺意が全面的に押し出された女が言う。むしろ帰りたいのは山々なのだが、ローレンが必死に止めている。
「戸惑ってなんかいない」
巴は、はっきりとした口調で言った。
「ローレン・メディッチ。あなたのこの依頼は間違いなくこの社会を混乱に叩き落す」
そう言って私は依頼内容を確認する。
薬物による肉体開発、早い話が戦争という試合で使われるドーピング。
この程度ならどこかの国で、すでに開発中だろう。ただ他と違うのはその薬が安全性•即効性に優れているということ、そして何より大量生産できるということ。
依頼は、この薬の生産ラインを確保に対する障害の排除。
開発されれば、犯罪も過激化するであろうこの計画を、全員が受け入れる訳がない。
危険だな、断りたいなー。
「一緒にこの世界を変えましょう」
この男はなんとかしなければ、ならない。
そう思いながら、私は薄い仮面を見つめ続けた。




