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二話

 ザワザワ煩い人混みの中を、周りの速さに合わせて歩く。自分に話しかけてくる人はいないし、人がいるという事実に何となく心が落ち着く気がする。特に目的があるわけでもないけど、人が多い場所を転々とする。目立たないように注意して、時間をやり過ごす。人間観察をしながらもやっぱり考えるのは何故こうなってしまったかということだ。俺の何がいけなかったのか。勉強だって運動だって俺のできるすべてで打ち込んだ。なのに両親の望みには答えられなかった。ならやっぱり俺が悪いんだろう。もう何も考えたくなくて目を瞑った。この雑踏の中に溶けるように消えられたらいいのに。そんな事を思ったところでどうにもならないことはわかってはいるけれど、俺がいなくても俺の家族には何の影響もないのだろう。いや、きっといない方がいいのかもしれない。考えたくなくて目を瞑ったのに、やっぱり駄目だ。一度はまってしまうと中々抜け出せなくなる。


 ふとスーツ姿のサラリーマンの二人組が目に留まる。どちらも若く見えるが、一人だけが敬語で話しているのを見ると先輩後輩ってやつなのだろう。先輩と思われる方は何やら後輩っぽい方の肩をポンポンと叩くと二、三歩前を歩いて行った。後輩はそれに遅れないように後を追っていく。だんだん離れていく二人の背中がとても大きく見えた気がした。あの後輩が俺だったらなぁ。あの二人の姿は俺がなるはずだった、いや、なりたかったものだ。朝、家族で朝食を取って、仕事に行って、必死に働いて、クタクタになって家に帰って、今日も疲れたなんて言いながら家族と過ごす。尊敬できる先輩をみつけて、一緒に頑張る同期と競い合うように腕を磨いていく。そんな日々をおくれると思っていたのにな。プロスポーツ選手になるとか難しいことじゃない、普通の人がなれることすら俺にはできなかったんだ。何が両親の望に答えるだ。自分の勘違いに気付いて笑えてきた。両親の望みが高かったって思っていた。思いたかった。違う。俺の力があまりにもなさすぎたんだな。何かがツーと頬をつたった気がした。


――ト…ャ……――


また俺の名前を呼ばれた気がした。もう俺の名前を呼んでくれる人なんていない。朝の夢の余韻でも残っていたのだろう。心地よく感じたはずのそれさえ、今では俺を責めているように感じる。


 帰ろう。そう思って立ち上がろうとした。けど瞬間的に体が止まる。俺に帰る資格などあるのだろうか。急に底なし沼にでも沈んでしまったかのように息がつまり、身動きが取れなくなる。周りの音もどこか遠くに聞こえる。未来に希望なんてないとは思っていたけど、その前に今の俺に未来があるのかすらわからなくなった。


 薄暗かった空から、少しずつ水滴が落ちてた。だんだん強くなっていく雨脚に、移動しなければと体に力を入れる。ゆっくり歩きながら、いっそこのこと俺という存在も洗い流してはくれないかと、不可能だとわかっているけどそう思ってしまった。

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