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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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閑話 ハロウィン②

 ハロウィンの飾りつけのされた大通りを、巨大カボチャは手近な通行人をその太い蔓に絡め取りつつ、のっしのっしと進んでいた。周囲にはそれと比べれば小さいが大小様々な大きさのカボチャを引きつれている。

 その進撃を食い止めようと数多のプレイヤー達が立ち向かってはいるものの、相手の大きさと数の多さ、そして蔓への対処に手間取っているために押され気味で、巨大カボチャとそのお供達は段々と《始まりの町》の中心部、噴水広場へと近づいて来ていた。






「うわあ……何だアレ、やばいんじゃねーか!?」

「カボチャが勝手に動き出したうえに人を襲うとは……大事件でござるな!」

 あんまりにもあんまりな光景に目を丸くするヤヒコ。白銀は何故かテンションが上がっているようだ。やけにうきうきした様子でぐぐっと拳を握っている。

「…………ここの運営は戦闘以外のイベントが考えられんのか?」

 後から出てきた槐は溜息をついた。

「ええっと、俺はどうしようかなー……あんなデカいのに勝てるわけないし――」

 ヤヒコの弱気なその台詞は、ばしゃん!、といきなり顔面にぶつけられた水塊によって遮られた。言わずもがな鯛子の仕業である。

「なんなの? 鯛子さんは俺にあんなのと戦えっていうの? 死ねって言うの?」

 腰につけた壺の中でばしゃばしゃと騒いで自己主張する鯛子をジト目で見つつ、ヤヒコは抗弁する。

「……とりあえず戦えってことなんじゃないか?」

 見かねた槐が仲裁に入る。

「――わかったよ、戦うよ。でも、あんな大きいのは勘弁だからな!」

 それが不満らしくなおも暴れる鯛子を横目に、ヤヒコは乾燥魔法で自分を乾かすのであった。


 ヤヒコが店の中に戻ると、クレイン達は窓際に移動してカボチャの行列を見物していた。

「動くカボチャなんて、僕も初めて見ましたよ。長生きはするもんですねえ」

 クレインは大層感心した様子でそんなことを言っているが、彼はとっくに死亡済みである。ヤヒコはつっこむべきか迷った。

「カボチャが暴れているのはこの町だけみたいね。他の町では今のところはこんなことになってないらしいわ。今、手の空いている攻略ギルドに救援要請してるから、もう少ししたら人手が増えるはずよ」

 エリンが言う。その背後ではサーシャと料理人達が共に誰かと音声チャットで連絡を取り合っている。彼女達は連絡役に徹するのだろう。


 あの巨大カボチャは攻略ギルドあたりに任せるとして、サイズの小さいカボチャも片付けなくてはなるまい。先程のエリンとカボチャの戦闘から鑑みるに、本体の実の部分をどうにか潰せば動きを止めるようだ。メイスで叩き潰してしまえばいいだろう、とヤヒコも戦闘の準備を始める。

「とりあえず、俺はカボチャと戦ってきます。今のところ建物の中は安全だと思うので、クレインさん達はここで待っててくださ――」

「いえいえ、見てるだけなのも悪いですから、僕等も出ますよ」

「ええっ」

「それに何だか面白そうな植物ですし、研究用に2、3匹連れて帰りたいです」

「そ、そうですか……」

 理由はあれだが手伝ってくれるのならありがたいことである。

 ヤヒコ達は店から出撃した。






 カボチャの強さはその大きさに比例しているらしい。

 迫り来る蔓をかいくぐり、ヤヒコは本体をメイスで叩く。小さいカボチャは1、2発叩けばすぐに潰れた。

 プレイヤー達がカボチャの大群と戦っているせいで、道はカボチャの破片だらけだった。しかもよくみると、カボチャの破片に混じった種から芽が出てきている。

「うげっ、これ、早く燃やすか何かしないと不味いんじゃ……!」

 顔を青くしたヤヒコの目の前で、種達が元気に小さな葉を出しすくすく育ち始める。

「うわあ、《ファイアアロー》!」

 急いで火魔術でそれらを焼き払うヤヒコ。焼けるカボチャの甘い匂いが立ち込める。

「白銀! 武器に火属性付与して戦え! 槐さんとクレインさんは火魔術お願いしま――」



「ふむ、大きさ別にサンプリングもしてみたいですねえ」

「……結構丈夫な蔓だな……俺様としては何かの材料に使えるとうれしいが――」

「領主様、このカボチャ、手のひらサイズで可愛いです!」

「マジックバックの中なら……船に被害は出まい……」

「おっ、こっちのカボチャ、顔が描いてあるぜ」

「種を持って帰るというのも良いのではないですか?」

「きー!」

「そういえば、さっき福助君が食べてたカボチャプリン美味しそうだったなあ」

「このカボチャを見ていたら、拙者なんだかまた腹が減って来たでござるよ!」

「「「「「「「「はっはっはっはっは!」」」」」」」」「きききっ」



 ヤヒコの背後ではカボチャをネタに和やかな談笑が行われていた。

「     ち、ちっくしょーーー!!」

 ヤヒコはあまりの悔しさに駆け出した。






 カボチャは町全体に溢れているようだった。ハロウィンが近かったために各商店が多めにカボチャを仕入れていたことや、町の飾りつけに多数使用されていたことを除いても、この数は多すぎる。先程のように後から後から増殖しているのだろう。

「とにかく全部燃やしちまうしかないのか?」

 他の者達が潰したカボチャから出てきた芽を燃やして回りつつ、ヤヒコは呟く。戦闘力は他のプレイヤーに劣るため、そういう細かい仕事をすることにしたのだ。

「こっちの通りは片付いたから次は……うわあ!」

 カボチャの奇襲により胴を蔓に巻かれ宙に釣り上げられるヤヒコ。そこに水の刃が飛来し、ヤヒコは蔓から解放された。

「え、今のは鯛子、じゃなくて……?」

 水の刃が飛来した方向を見ると、そこには彼がよく知る人物がいた。

「海竜のおささん! どうしてここに!?」

 彼は無言で手にしたものをヤヒコに見せる。それは、カボチャを丸ごとくりぬいて器に使用したと思われるカボチャプリンだった。しかも食べかけのようで、スプーンまで持っている。

「何でこんな往来で食べてるんですか! しかもそれ大きすぎますよ!」

 一抱えほどもあるカボチャプリンを、長は瞬く間に完食した。そして、ヤヒコに襲いかかろうとしていたカボチャから手刀で蔓を切り飛ばし、すぐ近くにある店に入っていく。

「えっ、まさか……!」

 店の中を覗くと、長が店員の女性にカボチャを差し出し、かわりにまた別の大きなカボチャを受け取っているのが見えた。恐らく、カボチャを納品してはプリンに仕立てさせているのだろう。

 長は店から出てくると、店の前のベンチに座って幸せそうな顔でカボチャプリンを食べ始めた。彼にとって今の状況は、カボチャのお菓子を食べ放題で幸せな状態なのかもしれない。なにしろ材料のほうから歩いてくるのだから。

「…………ま、まあ、長さんも気をつけてくださいね!」

 無言で手を振る長に手を振りかえし、ヤヒコは再び町を駆ける。

久しぶりなので、できるだけ皆を出演させようと思ったら、2話に収まらなくなりました……。

どうしてこうなった。

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