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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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魔竜との会談② 負けず嫌い

 そんなこんなで魔竜との対談の用意は進められていったが、ヤヒコは所詮外野のソロプレイヤーであるため、何もすることはないはずだった。なので、金策の次は鍛冶のスキル上げをしようと考えたヤヒコは、鶴嘴を担ぎ、マルトミで果物を買い込み、地竜鉱山へと向かうのだった。


 鉱山ではいつものようにコウモリ達の熱烈な歓迎を受けた。半分以上は果物目当てであろうとはいえ、小さくてもふもふした生き物と戯れるのは心が休まる。福助も洞窟の中では元気いっぱい飛び回れるのでお気に入りの場所らしい。

「ここんとこずっとポケットの中だったからなあ……」

 のびのびと洞窟を満喫している様子の福助。そんな福助を眺めつつ、ヤヒコ達は洞窟の奥へと進み、早速採掘を始めた。

 しばらく採掘を続けていると、急にフレンドメッセージがきた。差出人はエリンのようだ。

「何だ? エリンさん、今忙しいんじゃ……」

 訝しむヤヒコが開いたメッセージには、こう書かれていた。

『至急! 白猫料理店本店前まで来てください!』

「……はい?」






 ヤヒコ達が白猫料理店本店前まで駆けつけると、そこにはエリン、黒狼、アルトなどの『黒狼旅団』の面々、そして彼等に囲まれるようにして、魔竜の片割れ、十代後半の女の姿のほうがいた。確か、ランネレースとかいう名前だったはずだ。彼女は今、物凄くむすっとした顔をしてヤヒコを睨んでいた。一体何事だろうか。

「……えーっと、エリンさん、どうしたんですか? 至急って……」

「ごめんね、ヤヒコ君。どうしてもランネレースさんが、ヤヒコ君に話したいことがあるって……」

 申し訳なさそうなエリン。それに構わず魔竜ランネレースはずんずんとヤヒコに近づいてくる。

「お前、ヤヒコとか言うそうだな!」

「え、そうだけど……」

 訳が分からずたじたじとなっているヤヒコに、彼女は人差し指を突きつけて叫んだ。

「ヤヒコ、私と勝負しろ!」

「「「「「えええええええ!?」」」」」

 その場の皆が驚愕の叫びをあげた。


「いや、ちょっと待ってくれ。あんたらは和平と言うか、不可侵条約とかそういうのを結びに来たんじゃないのか!?」

 焦るヤヒコ。自分が一体何をしてこんなことを言われねばならないというのか。

「もちろんそうだ。だが、お前は私に最初にあったとき、驚きもしなければ慌てもしなかった! 目の前で人間に化けてやったにもかかわらず……何だか負けた気がするのだ!」

「最初って……まさか、浜辺で会った時のことか? 別にあれは驚くことじゃないだろ……」

「その余裕が腹立たしいのだ!」

 地団駄を踏むランネレース。

「今回は和平のためにやってきたからな、暴力行為はしない。だが、他の何らかの力比べでお前に勝ちたい!」

「……お兄さんは何て言ってるんだ?」

「兄さんは関係ない! 兄さんは呼ぶな、怒られてしまうだろう!」

 ランネレースの顔が青くなる。兄のことは怖いらしい。

 困った事態になった。これでこのまま勝負を流してしまえばあとの交渉の席でへそを曲げられかねないし、かといって角の立たない勝負などあるだろうか?

「……お兄さんの方は今、話し合いの準備してるのよねえ……困ったわ」

 エリンが溜息をつく。この魔竜は思ったよりも精神年齢が低いようだ。黒狼は黒狼で勝負と聞いた途端に目を輝かせ飛び出してこようとして、アルトに止められている。

 ヤヒコは今すぐ帰りたい気持ちだったが、それを抑えて問いかける。

「それじゃ、勝負って何がしたいんだ」

「えーっと……尻尾の長さ比べとか!」

「人間に尻尾はねーよ」

「じゃあ……どっちの角が立派か……」

「角もねーよ」

「じゃあ、じゃあ、どっちが速く飛べるか勝負だ!」

「俺は飛べねーから。負けでいいよもう……」

「駄目だ駄目だ、勝負するのだー!」

 まるで子供である。

「……仕方ねーな、トランプとかできるか?」

「おお、トランプか、できるぞ!」

 ランネレースの顔がぱあっと輝く。

「じゃ、一対一じゃつまらねーし、警備上の問題もあるからな……ここにいる皆でやるか。場所はどこにする?」

「どうせ今日はお店開けられないし……お店の中でいいわよ」

 ここに、魔竜とプレイヤーによるトランプ大会が始まった。






 結論から言おう。

 ランネレースは弱かった。

 

 ヤヒコと一対一をしようとも、他の者達も交えて多人数戦をしようとも、彼女は負けた。

 接待だとか、インチキだとか、そういうものとは全く別次元で負け続けた。誰もが有利なカードを流してやろうとも、ババ抜きでは必ずババを引いたし、ポーカーでは何の役も揃わなかった。これでは誰も手の打ちようがない。

 ルールを知らないわけではなかった。だが、あんまりにもツキがなさすぎるのだった。

「何故だ、何故誰にも勝てないのだ……」

 絶望の表情をした彼女は、仕舞いにがっくりと膝をついてしまった。


 そして、打ち合わせが一息ついた兄に、プレイヤー達にわがままを言って勝負を挑んだことがばれ、こってりとしぼられた。

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