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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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二泊三日、恐怖の島体験ツアー④ 開始、1日目

 その日、《始まりの町》近郊の浜辺とその近海は異様な厚さの霧に覆われた。これまでこの場所がここまでの濃霧に包まれたことは一度もなかった。

 そんな濃霧に包まれた浜辺に、件のツアー参加者のうちのジェイレット島調査隊の面々は集められていた。


「ここに迎えの船が来るって話だけど、こんな濃霧じゃ無理なんじゃないかしら?」

 エリンは心配そうに前もってヤヒコから渡されていたツアーパンフレットを見つめる。もうすぐ船が着く予定の時刻だ。この霧の中をどうやって進むというのだろう。

「なんだよもー、こんなんじゃ延期になっちまうんじゃねーか?」

 大層不満そうな顔で黒狼が言う。アルトがまあまあと落ち着かせようとするが、中々収まらない。

「延期じゃないか? さすがにこの霧では……何だ?」

 ハヤトが霧の海を見る。何か軋むような音がしたのだ。

 遠くから響くその音は、段々と港に近づいているような気がする。やがて、濃い霧の向こうに何か大きな黒い影が見え隠れし始めた。

「うそっ」

「なんだあれ!?」

「な、まさか……!」


 漆黒に塗られた大型の船体。

 同じく漆黒のマストには骸骨印。

 霧に紛れつつもはっきり見える骸骨印の旗。

 そして、その舳先には――いかにもな服装の骸骨が立っていた。


「「「「「ゆ、幽霊船だー!!」」」」」

 恐怖する者、歓喜する者、警戒し武器を構える者……その場は大混乱に陥っていた。

 その大型船はゆっくりと浜辺に近づき、ある程度のところで停止し、錨を降ろした。動くに動けないツアー参加者達。

 船から小舟が降ろされ、それは3人の人影を乗せてゆっくりと浜辺に近づき、接岸した。そこから降りてきたのは先程の舳先に立っていた骸骨で、もう2体の骸骨を従えている。誰かがごくりと喉を鳴らす音が妙に響く。

 骸骨はツアー参加者達に近づいてくると、こう言った。そう、そいつは喋ったのだ。

「この度は二泊三日、恐怖の島体験ツアーにご参加いただき、誠にありがとうございます。私の名はバシリオ。これから皆様を本艦アーテル号にてジェイレット島までご案内いたします」

 参加者たちは固まった。と言うよりも、骸骨が言った言葉を飲み込むまでに時間がかかったのだ。

「…………え、ええと、迎えの船って……あなたたちのこと……?」

 恐怖に顔をひきつらせたエリンが恐る恐る問う。

「そうですな。我々が案内します」

 バシリオと名乗った骸骨はそう答える。

「では皆様、荷物をお持ちになってまずはこの小舟にどうぞ」

 彼が指し示す小舟は、ツアー客達が皆で乗っても十分なだけの大きさがあった。

 ツアー客達は顔を見合わせ、武器を構えていた者は武器をしまい、骸骨に招かれるまま、小舟に乗り込んだ。


 小舟は2名の骸骨により漕がれ、瞬く間に大型船の傍に着いた。すると、船から縄梯子が降ろされ、乗客達はそれを登り、大型船に乗り込んだ。

「え、なにこれ、すっげーな! 幽霊船で海賊船なんてかっこいーじゃん!」

 ただ一人、黒狼だけはテンション高く騒いでいた。目がキラキラ輝いている。船を待っていた間とはえらい違いだ。

「……お前、本当に元気だな……」

 ハヤトは既に消耗したような顔でじろりと黒狼を見る。アルトがまた抑えようとしているようだが、そのままだと勝手に船の中を探検しはじめそうだ。まるで小学生のようである。

 ツアー客達はそのまま骸骨のはびこる船内へと通され、各々の船室へと案内されていった。






「やりましたよ、ヤヒコ君! これはいい感じの掴みですよ!」

 ツアー客達のものとは別の船室で、クレインは大層うきうきした様子で客たちが客室に向かう様子を水晶盤を用いて覗いていた。

「……ちょっと怖がらせすぎなんじゃないですかね?」

 ヤヒコはクレインと一緒に水晶盤を眺めていたが、黒狼以外は皆萎縮して、今にも帰ると言い出しかねない雰囲気に思えた。

 槐と和子達は調査隊の面々よりも先に船に乗り込み、それぞれの船室でくつろいでいた。彼等は特に骨の船員たちを怖がりもせず、ゆったり過ごしている。ただ、マックス君だけは怯えて和子の船室のベッドの中に潜りこんでしまい出てこない。福助といいマックス君といい、何故怯える者は布団を被りたがるのか。

「浜を離れてしばらくしたら、荒海の結界を発動させますから、その時が楽しみですねえ」

 くすくす笑うクレイン。もしかしたら彼はドSなのかもしれない、とヤヒコは思い始めた。






 果たして、荒海の結界が発動すると、各客室は騒然とした。悲鳴を上げた者さえいる。急に上がった航行スピードに加え、船の揺れも大きくなり、調査隊の面々は皆顔面蒼白だった。

 船は大丈夫なのか、沈まないのかと船員に食ってかかる者もいたが、このくらい普通です平気です、などと対応されて涙目になっていた。


 そんなこんなで島に近づき、荒海の結界が解かれると、彼等は皆ほっとした表情になった。そしてうかうか甲板に出てきて、濃霧の中を道案内に来たレイスに挨拶され、またも恐怖に顔を引きつらせた。

 船が港に着き、ロープで固定されると、再び縄梯子が降ろされ、客達は恐る恐る港に降り立った。

「あ、槐さん! 槐さんも来てたのね!」

 エリンは同じく梯子を下りてきた槐を見つけ、ほっとした顔を見せる。

「……久しぶりだな」

「ヤヒコ君も、槐さんも誘ったんなら教えておいてくれればよかったのに……。もうひとり、そちらの方はどなた?」 

「あ、私は和子と言います。私もヤヒコ君に誘われて来ました」

「じゃ、今回のツアーは槐さんと和子さんと私達でってことかしらね」

「他の客は見なかったな」

 カタカタガラガラと言う音を響かせ、骨の馬が引く4人乗りの馬車が4台、港に入ってくる。

「骨の馬、ですか……」

 アルトが緊張した面持ちで呟く。彼は相変わらず黒狼の面倒を見ているが、周囲の様子も隙なく観察していた。

 客たちは4人づつ、和子は召喚獣とセットで1台の馬車に乗せられ、領主の館へと連れられていく。


 馬車が4台とも去った後、こっそり船から降りてくるクレイン、バシリオ、ヤヒコに白銀。

「いやあ、面白え企画を考えたもんだな、領主さん。連中皆びくびくしてやがったぜ」

「ふふふ、いい感じでしたねえ。あとは彼等を客室に案内して、晩餐の後は自由にお休みしてもらう、と。無理に観光予定を詰めなくて正解でしたかね」

「皆ぐったりしてると思いますよ。それに、どうせ部屋のほうでもドッキリ企画してるんでしょう? 神経が持ちませんよ……」

「皆すごい顔をしてたでござるもんなあ……」

 彼等もまた別に用意された馬車に乗り込み、館に向かうのであった。

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