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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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二泊三日、恐怖の島体験ツアー③ 準備

 エリンからの返事を待つ間、ヤヒコ達は白猫料理店本店の店内で待たせてもらうことにした。会議とやらがどれくらいかかるかわからないので、他の用事をしに行くのも難しいのだ。

 ちょうど昼時だったので、適当にランチセットを注文して白銀に食べさせたり、鯛子の壺に入れてやったり、福助に血を吸われたり、そんなことをしていると、店にしょんぼりした様子で入ってくる者がある。ボス戦の取材をしに来た記者のネムだ。何があったのかはわからないが、肩をがっくりと落としている。

 そんなネムはヤヒコを見つけるとギラリと目を光らせ、素早く近づいてきて隣の席に陣取った。そして、何か言おうとして口を開く。

「取材は受けないぞ」

 ヤヒコのその一言で、ネムは机に突っ伏してしまった。いい感じに追い打ちになったらしい。

 ピクリとも動かないネムに構わず、ヤヒコ達は食事を続けた。しばらくするとネムも起き上ってランチメニューを注文しはじめた。早く食べ終わらないと長期戦になりそうだ。

 何とか復活したらしいネムは、再び口を開いた。

「ヤヒコさんは」

「断る」

 ヤヒコも素早く応戦し、ネムは歯噛みした。

「くっ……これじゃ今日のネタが何にもないですよ……」

「知らねーな。他をあたれ」

「ううう……」

 悔しそうな顔で、運ばれてきたハンバーグランチセットをつつくネム。

「幽霊島の情報もなかなか入ってこないし、今日は散々だわ……」

「ゆうれいじま?」

 どこかで聞いたような単語にヤヒコはうっかり反応してしまう。と、途端にネムが元気を取り戻した。

「そう、幽霊島です! 今とてもホットな話題ですよ。知らないんですか?」

「…………」

 ヤヒコは余計な事を言わないように黙秘した。その沈黙を、ヤヒコが話題を知らないのだと取ったらしいネムは、訳知り顔で話し始めた。

「幽霊島と言うのは、高位アンデッドの一種であるリッチが治める島で、アンデッドばかりが住んでいるのだそうです。とある匿名のプレイヤーがその存在を知り、この前の主要ギルド会議に情報を提供したらしいんですよね。それで、今度詳しいことを調べようと調査隊が出されることになったんだそうです」

「ふーん」

 努めて興味のない反応を試みるヤヒコ。しかし、ネムのほうは説明に没頭してそんなことは気にもしていない様子だ。

「ところが、主要ギルドのいくつかで、別方面のトラブルが起きたとかで、調査隊に参加不能なところが結構出たみたいなんです。そこで、今フリーな『黒狼旅団』とか『漁協』からも調査隊のメンバーが選出されるらしいんですよ」

 そこまで言って、がっくりと肩を落とすネム。

「この前のボス戦取材のつながりで、私もメンバーに加えてもらおうと思ったんですけど、さすがに無理だって言われちゃって……はあ、行きたいなあ、幽霊島……きっとスクープだらけなのに……」

「…………」

 ヤヒコは、こいつの前でだけはジェイレット島のことを話すまいと心に誓った。






 ネムは昼食を終えるとすぐに店を出て行った。本日分の記事がまだ書けていないのだという。

 彼女がさっさといなくなってくれたことに安堵するヤヒコの元へ、タイミングが良いのか悪いのか、エリンが現れた。ヤヒコ達も食事が終わっていたので、再びエリンの部屋に招かれる。

「今回の調査隊メンバーは『白猫料理店』から私を入れて3人、『黒狼旅団』から4人、『漁協』から3人の10人になったわ。『黒狼旅団』がひとり多いのは、私達よりも戦闘向きだから、いざという時のためってことね。あと、調査隊のメンバーにはそれぞれのギルドのギルドマスターが入ってるわ」

「ギルドマスターが出っ張るんですか……すごいですね。で、皆さん、どんなコースでまわりたいんですか?」

「うちの3人と『黒狼旅団』の2人は図書館とか、魔術師向けの店を見てまわりたいわ。今回参加しないギルドからの要請で、学術都市としての程度を見てきてくれって言うのがあるの。他の5人は他の観光コースね。『漁協』のメンバーなら港湾施設関係とかの海周りのこともわかるだろうから、観光遊覧船にも乗ってもらうつもり。あと、『黒狼旅団』の4人はゴースト狩りの時は戦闘に加わりたいって言ってるわ。単純にゴーストとの戦い方を教わりたいって言うのもあるけど、向うの戦力と練度を図る意味合いもあるわね。詳しくはこの手紙に書いておいたから、これを向うの責任者の方に渡しておいて欲しいの」

「了解です。お預かりします」

 エリンから手紙を預かる。これで、本格的な計画に入れるに違いない。これらエリンからの希望と、槐や和子さんの希望をクレインに伝え、なんとかツアーを成功させなければならないのだ。

 ヤヒコ達はエリンの部屋を出て、再びジェイレット島に向かった。


 数日後、ヤヒコの手からツアー参加者に各々1冊づつのツアーパンフレットが手渡された。表紙におどろおどろしい字で『二泊三日、恐怖の島体験ツアー』と書かれたそのパンフレットは、外装内装共に何とも言えぬ不気味な色合いで統一され、手にした者をドン引きさせた。

 そして、ついにツアー開始日、指定された集合場所に集った参加者達が目にしたものは――

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