大魔術師のセカンドライフ① 死霊の住む島
荒海の結界に包まれた船は存外に速い速度で進む。強風は常に追い風となって船を先へ先へと進めているのだ。
ヤヒコ達は風雨を避けて船内に籠っていたが、思ったよりも揺れは少なく、船外の天候とスケルトン船員たちの骨の軋む音以外は快適な航海を楽しむことができた。尤も、窓から見える景色は嵐の海しかないので観光にはならず、船内で雑談やカードゲームなどに興じる以外に暇をつぶす方法がなかったが。
最初は自分達以外が骨ばかりの船内でびくびくしていたヤヒコも、気さくに話しかけられ、しばらく彼等と会話するうちに慣れてきた。スケルトンと言えど、まともに会話が通じる相手であったのが幸いした。しかし、どれが誰やら服装や身長、声以外で見分けがつかないのが難儀なことである。なにしろ全員スケルトンなのだ。そのうち見慣れれば見分けがつくようになるのだろうか。
「見えてきましたよ、あれが僕の領地、ジェイレット島です」
クレインと共に船室から出て風雨に晒されながらも目を凝らすと、白い霧に包まれた島が見えてきた。結構な大きさのある島を中心に、幾つかの小さい島が集まっているようで、幾本も高い塔や高層建築が建っているのがうっすら見える。
「しかし、すごい霧でござるな……」
「背の高い建物が多いですね」
「島ですからね。土地が広くないので、どうしても建物を上に伸ばさないとスペースの確保ができないんです。この辺りは地震も少ないですし、魔術で倒壊しないように対策してありますよ。――結界も、もうそろそろ切ってもいいかな」
島の方角から濃い霧が流れてきはじめたあたりで荒海の結界は解かれた。すると、島の方からベールを被ったぼんやり光る半透明な女性が飛んできた。比喩ではなく、飛行している。ドレスを着ているが、その下は典型的な幽霊画のように足がないようだ。
「領主様、お帰りなさいませ」
彼女はそう言って手にしたカンテラに青白い火を灯し、船の先導をし始めた。
「彼女はミレーヌ。種族は死霊です。この島に来る船は道に迷わないように彼女のようなレイス達が先導しているのですよ。この港はこれでも一応貿易港のひとつなのです」
「なるほど。もしかして、この白い霧も結界なんですか?」
「その通りです。防犯上の問題もありますし、この島には日光に弱い住民が多いので、日中は島全体、夜間は島の周囲のみを霧で覆っているんです。そのかわりに見通しが悪くなってしまっているので、彼女達には案内していい船の先導と悪い船への対応をお願いしてあります。レイスなら霧に紛れるのはお手の物ですしね」
よく見ると、うっすらとだが霧の中を飛び回るものがいくつも見えた。ああやって港の交通整理をしているのだろう。
船はそのまま港へと導かれ、ヤヒコ達は島に降り立った。霧は島の周囲だけではなく、港の中にもうっすらと漂っていた。
周囲を見渡すと、船の間を飛び回るレイス達や船から荷降ろしをするスケルトン達がいる。それらの荷物はこれまた骨の馬や小型竜に乗せられて運ばれているようだ。骨馬などの手綱を引いている人間はよくみると所々の肉が腐って剥がれているのが見える。リビングデッドの類だろうか。
「なんかめっちゃホラーなんですけど……」
思わず呟くヤヒコ。この島はアンデッド系種族ばかりが住む島らしい。
「ああ、僕もリッチになりたての頃は怖かったですけど、そのうち慣れますよ。さ、こちらです」
2頭の大きな骨馬に引かれた立派な馬車がやってきた。迎えの馬車らしい。ヤヒコ達はクレインに促され、共に乗り込んだ。
馬車の窓から覗く景色は、全力でホラーであった。
町の住民に生者は見当たらず、ほとんどがスケルトンとレイス系、リビングデッドが少々という感じであった。時折リビングアーマーらしき者や、騎士鎧を着た首のない者がいる。首のない者をよく見ると、小脇に首を抱えているようだ。正直怖い。
「骨の人、多いですね……」
「最初はリビングデッドでも、そのうち肉が腐って全部落ちちゃうので、最終的に皆スケルトンになっちゃうんですよね」
「どこからこんなに集まったんですか?」
「大陸中からですね。アンデッド系種族は生き物がいるところならどこでも発生しますけど、多くは退治されてしまいます。退治されたくないひと達が比較的退治されにくい魔族の住む地域に逃げ込んで、それからこの島のようにアンデッド系種族の多い地域のことを聞きつけて、移住してくるんです」
「この島に、生きてる人って住んでるんですか?」
「うーん、うちの島の学院に留学してくるひと以外はあんまり聞かないなあ……。皆学術機関の寮とかに住んでるから、町中ではそんなに見ないかもしれませんね」
町並みはボロいところもなく、至って普通だというのに、住民がほとんどアンデッド。何とコメントすれば良いのか悩むヤヒコであった。
ヤヒコ、プレイヤー未探査地域に初乗りです。




