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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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既知との遭遇

 槐と海竜の長からの頼まれ物を全て買い終わったヤヒコ達は、町の南門を出て海へと向かう。

 途中で1頭の大きな漆黒の竜に会ったが、会釈してそのまま通り過ぎた。大方人間に化けて町に買い物にでも行くつもりだろう。

「ちょっと待て」

 一応5日分くらいの食料は買い込んだので、槐もこれで安心するだろう。恐らく神殿でも何がしかの食物は振る舞われるだろうし、とりあえずはこれでいいのではないだろうか。

「おい、人間!」

 浜辺につくと、鞄の蓋がちゃんと閉まっているかを確認して、腰の壺から鯛子を

「待て! そこのお前だー!」

 いきなり先程の竜が目の前に飛び出し、行く手を遮ってきた。

「貴様、先程の態度は何だ! 私を見て、何も思うところがないのか!?」

「……は?」

 ヤヒコはあっけにとられた。

 この竜は、いきなりどうしたというのだろうか。

「この身を見よ! 貴様は何も感じないのか!」

「えーっと……どこかでお会いしたことありましたっけ?」

「少なくとも拙者は知らないでござるな!」

「そうじゃなーい!」

 黒い竜――声からするとメスであろう――は吼えた。何か気に障ったらしい。

「……すみません、何を仰りたいのか、ちょっと良くわからないんですが」

「うぐぐ……」

 何だかとても悔しそうな声だ。

 ヤヒコはしばらく考え込み、ポンと手を打った。

「あ、観光案内ですか」

「そういうことなら拙者達におまかせでござるよ!」

「全然違う!」

 黒い竜はぶんぶんと首を横に振った。全力の否定だ。

「まさかとは思うが、貴様は竜というものを知らんのか!?」

「いや、知ってますけど」

「では……これでどうだ!」

 竜の体が黒い光に包まれたかと思うと、そこには黒髪と赤く縦に割れた瞳孔の金色の瞳を持った10代後半くらいの見た目の女性がいた。目の前でいきなり変身して、どういうつもりだろう。

「どうと言われましても……」

「何故驚かん!」

「ドラゴン属とは皆、化けるものではないのでござるか? 拙者の知る者達は皆化けていたでござるが……」

「レベルが低いと化けられないらしいぜ」

「」

 何故か絶句された。

『ランネレース! 何をしている!』

 上空からもう1頭黒い竜が追加された。竜語で呼びかけている相手は、多分この人間に化けたメスの竜だろう。恐らく前半は名前で、『ランネレース』と呼んだのだと思われる。

「『ランネレース』さんとおっしゃるんですか?」

「え」

「あなたのお名前ですけど」

「え、まあ、そうだが……何でわかる!」

「今、貴方名前呼ばれてたでしょうに……。ところで、ランネレースさんは一体俺に何のご用なんでしょう? 飛んでる方はお連れの方なんじゃないんですか?」

「う、ううう」

 ランネレースは上空の竜を見上げて竜語で叫ぶ。

『兄さん、助けて! この人間何かおかしい!』

「えっ」

 初対面の竜にいきなりおかしいひと呼ばわりされた。何とも遺憾である。

「ちょっと、いきなりひとに話しかけてきておかしいはないんじゃないですか?」

「殿に向かっておかしい、とは何事でござるか!」

「で、でもっ! 貴様等はおかしいし!」

「どこがおかしいって言うんですか!」

「ぜ、全部だ全部!」

 言い合いをしているうちに、もう1頭が地上に降りてきた。

『一体何をしているのだ、早く人間の町へ行くのではなかったのか!』

依然竜語である。聞き取りづらくてしょうがない。

「こんにちは、ランネレースさんのお兄さん」

「お兄上殿、貴公の妹殿をどうにかしてほしいでござる!」

『兄さん、こいつらおかしいよ、変だよ!』

「どうしてあなたの妹さんは、自分から道を遮って話しかけてきておいてひとを、おかしい、とかいうんですか? ちょっとあんまりじゃないですか?」

「無礼にもほどがあるでござるよ!」

『え、そ、それはすまん……って、ええ!?』

 今度は兄が何事かに驚いている。

「何故お前達は我らを見て平気なのだ……?」

 やっと人間語になった。

「いや、竜ならこの近所にも住んでますし、町に買い物にも来ますし……もしかしてあなた方、人間が珍しいんですか?」

「いや……珍しいは珍しいのだが……」

 そんなに困惑されてもこちらも困惑する。

『何だ? 今、人間共は我らと戦っているのではなかったのか?』

『キュイラース殿はそう言っていたはずだけど……』

『なら何故攻撃してこんのだ……』

『こいつら私達の言葉も解るみたい……』

 なにやらこそこそ2人で話し合っている。一体いつ、この竜達と事を構えることになったというのか。現在そんな話はないはずである。キュイラースとはこの前の巨大鎧のことだろうか。

「キュイラースさんって、リビングアーマーのキュイラースさんですか?」

「そうだが、お前、知っているのか?」

「ええ、この前、町の西門の前で、巨大化の実演をしてくれました。格好良かったですよ!」

「また来ると仰っていたでござるな」

「「……」」

「もっと精進せよって言って、うちの白銀が巨大化できるように秘術まで教えてくれましたし、良い人、と言うか、良い鎧ですよね」

「いや、拙者はこのままのサイズで十分でござるが……」

「「…………」」

 しばらく2頭は無言だったが、

「少し……いや、大分、事実確認が必要なようだな……我らは帰る!」

「人間よ、また会おう!」

 言うだけ言って竜の姿に戻り、どこかへ飛び去ってしまった。


「……結局、一体どのような用事だったのでござるかなあ……」

「さあな……何しに来たんだか、さっぱり判んねーな……」

 あとに残されたヤヒコ達はただただ呆然とするばかりであった。

某巨大鎧「我に臆することなく会話できるとは、なかなかに見どころのある奴であった。また今度手合わせしてみたいものだ」


某吸血鬼「あいつらは触ると火傷する豆を持ち出してきた……あんな恐ろしい兵器を持っていたなんて!」


魔竜上層部「人間やばそう、ちょっと威力偵察出しとくか……」

魔竜兄妹「行ってきます!」


その結果がこれでした。

魔竜達の間では今後人間との関係をどうするかで議論が巻き起こるでしょう。

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