吸血鬼の来訪① 突撃! 魔族の誘拐犯
鍛冶を鍛え始めてどれくらいたったろう。
ついに待ちに待った日が来た。
「やったー! 修理終わったー!」
「ありがとうござる、殿!」
ヤヒコはついに白銀の修理をすることに成功したのである。
一言で言うと、大変面倒だった。
最初は他の中古の鎧で練習を重ね、次に白銀を一つ一つの細かいパーツに分解し、凹んだ部分を内側から外側から叩き、凹ませすぎて親方に怒鳴られ、錆びた部分を鑢を掛けて磨き、磨き足りなくて親方に叱られ、散々な目にあいつつも、ついに白銀を修理し終えた。
これでまだまだ他の金属を使った修理や、新品の鎧を一から作るには技量が足りないというのだから、鍛冶修行とは恐ろしいものである。
白銀のHPや防御力についていたマイナス表示はなくなり、これで一安心である。
「槐さんとエリンさんに見せに行くか」
「ふっふっふ、お二人に拙者のこの新品同然のピカピカボディを見せつけに行くでござる!」
まずは鍛冶場からより近い槐の店に向かう。吸血鬼の苦手な日中であるが、そんなことは気にせず、
「槐さーん! 見てくださーい!」
と元気よく工房の扉を開けたところでふと気づく。
「……あれ?」
「殿、扉に何かついていたでござるよ?」
一度扉を閉めてみると、戸板に、赤地に金で薔薇を模した紋様が入った封筒が赤いピンで留めてあった。
封筒の表には『親愛なる職人殿へ』。裏にはこれまた赤い封蝋と差出人の名前らしきもの。
「? 手紙?」
「……何をやっている」
ヤヒコが入ってこないのを不審に思った槐が表に出てくる。
「なんか凄く派手な手紙がきてますよ。扉にピンで留めてありました。差出人は……らんどる?」
「……誰だそれは」
槐はヤヒコから封筒をひったくると、作業場の奥の机にあるペーパーナイフで封を切る。中には白地に赤い薔薇の飾りをつけた便箋の他には何も入っていないようだ。
手紙を読みだした槐の顔が、次第に険しくなっていく。
「……何て書いてあるんですか?」
「…………」
槐が無言で手紙を机に放り出す。
ヤヒコが拾って読んでみると、大体こんなことが書いてあった。
『親愛なる職人殿。
ご機嫌いかがかな? 僕の名はランドル。この前、人間の町に騒ぎを起こした吸血鬼だと言えば解るかな?
この前の騒ぎで残念なことに、僕が抱えている優秀な職人のうちの一人がいなくなってしまったんだ。それで僕は今、新しい職人を探しているんだが、君の腕が気に入った。僕の領地に来てもらえないだろうか? 僕ならば、資金も素材も、職人殿の希望の全てを叶えられると思うよ。僕の手元ならば、君は雑事に煩わされることなく、作品の制作に励むことができるだろう。今日の日没頃に迎えに来るから、それまでに用意をして待っていてくれたまえ』
「…………犯罪予告? 誘拐予定時刻まで書いてあるし……」
「つまり、このランドルとやらは、ずばり誘拐犯ということでござるか?」
「槐さんの希望を聞いてるようで全く聞いてないしな。連れ去り前提の文章だぜ、こりゃ」
「事件でござるな!」
槐が深い深い溜息をついた。
「……今まではイーヴリンに仕事をさせてたんだろうな。あいつがいなくなって、替わりの職人を物色してたんだろう。それで俺様が奴のお眼鏡に適ったらしい。言っては何だが、俺様は優秀だからな」
「そんなこと言っている場合じゃないですよ、早くエリンさんのところに行って、対策練らないと!」
「善は急ぐでござる!」
こうして、彼らはエリンのところに行くことになった。
白猫料理店本店に行くと、店は閉まっていた。丁度入口にいたサーシャに訳を聞くと、何か騒ぎが起きて、その対応に忙しいらしい。とりあえずこちらも重大事の報告があると言ってエリンに取り次いでもらう。
エリンは『白猫料理店』の幹部達と共に店の奥の自室で会議をしていた。皆血相を変えている。数人のギルド員がチャットを利用して、各ギルドと連絡を取り合っているようだった。ヤヒコを見ると、エリンはとんでもないことを口にした。
「ヤヒコ君、大変よ! この前の騒ぎを起こした吸血鬼が、色んな町を手下に襲撃させているの!」
「ええ! そんな、槐さんに誘拐予告が来たばっかりなのに!」
「誘拐!? ……この手紙がそうなの?」
エリンにも犯罪予告状を読ませる。
「どうしよう、町を物色して気に入ったプレイヤーを連れ去ろうとしてるんだわ。運良く、光神殿のほうから派遣されてる神官さんたちがまだ町々に残ってたから浄化も進んでるし結界も張ってもらえたりしてるけど、どこの主要ギルドも町の防衛に忙しくて、とても槐さん個人の護衛にまで手が回るとは思えないわ……」
「一体どうしたら……そうだ、吸血鬼は水が渡れないからイリーンベルグに、って槐さんも吸血鬼だった……」
「その手があったわ! 早く他にも予告が来ている人を探して、その人たちはイリーンベルグに送りましょう。各町の漁協の拠点には、イリーンベルグの本拠地と通じる転移魔法陣を設けてあるそうだから、それを借りればいいわ。あそこには襲撃が来ていないし、できないでしょう。でも、槐さんは他のところに隠さなきゃならないわ」
「……どこに隠れろというんだ」
「そうね……とりあえず他のギルドと話し合ってみるわ。悪いけど、時間をもらっていいかしら」
彼女達主要ギルド連合の決定を待つ間、ヤヒコ達は槐の工房にいることにした。
この前のリビングアーマーの大群は、単純に戦闘のみのイベントだったが、今回の相手は頭脳が優秀すぎる。各町に同時に大規模な攻撃を仕掛けてきたのも、誘拐の目くらましのためだろう。それと、防衛のための戦力を細切れにする目的もあるに違いない。どこかしらに運営の関与もあるかもしれないが。
「この前のこともあったし、いつかは来るかと思っていたが……思ったより早かったな」
「……どうしよう……槐さん、吸血鬼のところに行ったら囮卵食べられなくなっちゃいますよ! 吸血鬼じゃ採って来れませんし」
「……貴様、俺様を何だと思ってるんだ」
プレイヤー側から優秀な職人を引き抜けば、例え攫われた職人たちが吸血鬼に協力しなかったとしても、自ずとプレイヤー側の戦力も落ちる。その上で、一気にこちらを攻め落とそうとしているのかもしれない。
悩み続ける槐の横で、ヤヒコがあっと声を上げる。
「俺、今、すごく良いこと考えつきました!」




