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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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地竜さん、ふねに乗る① 初めての海

 目標とする鍛冶スキルレベルまであと少し。

 ヤヒコは地竜鉱山にて採掘に励んでいた。が、いまいち身が入らない。

 頑張って集中しようとするのだが背後から地竜にずっと見られているのだ。どうしても気になる。

「…………えーっと、レィエルディスさん」

「ぬっ、な、何だ!」

「何か俺に御用ですか?」

「ぬう……」

 何やら口ごもる地竜。用事があるなら背後でもじもじしていないでさっさと言ってほしい、と思うヤヒコだが、同時に厄介事を持ち込まないでほしいという気持ちもある。

 しばらく逡巡していた地竜は、やっと何事かを決心した様子で話しだす。

「……あのだな」

「はい」

「この前、お前が持ってきたマンゴーと言う果物、麓の町で探したのだが、中々入荷しないと言われたのだ」

「ああ、そうみたいですね」

「お前はあれをもっと南の町で買ってきたと言っていたであろう」

「……買いに行きたいんですか?」

「うむ……」

 しかし、それには結構難しい問題がある。

「俺、海経由でしか行ったことないんですけど、レィエルディスさんって泳げたり長距離飛べたりします?」

「どちらも無理であるな……」

「小さくなれるならそのまま連れてけますけど、大きいままじゃ何日かかるかわかんないですね。陸路だと結構遠いんですよ」

「小さくなるなどと言う器用なことはできん……人間の姿ではどうだ?」

「船って乗ったことありますか?」

「……ふね?」






 《始まりの町》は内陸の町である。海経由の品物は、近くの海岸付近までやってきた大船から小舟に荷を積み替えて町の東側を流れる大きな川を遡上するか、完全に陸に上げて陸路で運び入れている。

 南方の港町であるイリーンベルグに行きたい者は、町の東側にある川の船着き場から小舟で出発するか直接海岸まで行って、イリーンベルグ行きの大船に乗ることになる。尤も、イリーンベルグに拠点を持つ、ある程度大きなギルドならば拠点に設置できる転移の魔法陣を利用することもできるだろう。陸路でも行けることは行けるが、とにかく日数がかかるため、倦厭されている。


「これが船か……」

「拙者も初めて見るでござるな!」

 《始まりの町》近くの海岸にて、人型を取った地竜レィエルディスと白銀は感慨深げにソレを眺めていた。

「いや、普通はこんなんじゃないんですけどね……」

 ヤヒコがすかさず訂正を入れる。

 彼らが目の前にしているのは、背中に荷車の荷台のようなものを背中に括り付けた海竜達である。これらの竜達は人間の船を無差別に襲った犯人達で、その罰と償いのために船の代わりをしているのだ。

「ほら、あっちに浮かんでるのが船ですよ。こちらの海竜達は、面白半分に船を壊した罰として、船の代わりをしないといけない連中なんです」

「ふむ……あのように木造では強度に不安がないのか?」

「嵐とか竜とかにぶつかられたら、そりゃぶっ壊れますけど……普通にしてれば壊れませんよ」

「しかし沢山あるでござるな。拙者達はどれに乗ればよいのやら……」

「こっちだ、ほら」

 ヤヒコは『カンテの浜⇔イリーンベルグ』の看板を首から下げた海竜列の前に2人を導く。海竜1頭につき20人ほど乗せることができるようで、決まった時刻になり次第、順次出発して行っているようだ。

 入場者整理の係員らしき人を見つけ、声を掛ける。

「すみません、3人お願いします」

「はいはい。一人500ゴルね」

 ヤヒコは1500ゴル払い、3人分の席を確保し乗り込む。

「……結構揺れるものなのだな」

「まあ、船は元々そういうものです」

 この航路はそこそこ人気があるらしく、すぐに席は埋まった。まあ、今だけ限定の海竜の背に乗りに来た客も多いに違いない。海竜達はと言うと、皆何となくしょぼくれている。よっぽど長のお仕置きがきつかったのか、船の代わりがきついのか。何にせよ、自業自得なのでどうしようもない。

 やがて出向時刻になりヤヒコ達を乗せた海竜はイリーンベルグに向かって泳ぎだした。






 幸い天気は良く、波も穏やかであった。

「おお! 殿! これはすごいでござるな!」

 白銀は周囲を見回し騒いでいる。はしゃいでいるようだ。

「他の客もいるんだから、少しは静かにしろ!」

「しかし殿、たまには船に乗るというのもいいでござるな! いつもは殿のポケットの中でござるからなあ」

 彼はいつも小さくなってポケットに入っているので、あまり眺めも良くなかったのだろう。今度は普通の船にも乗せてやろうかな、と思うヤヒコであった。

 鯛子は壺から出たがったので出してやると、自分で泳いで海竜に併走しはじめた。やはり、海は自分で泳ぎたいらしい。

 福助はポケットから頭だけ出して海を眺めている。時々何事か鳴いているようだが、聞き取れない。コウモリお得意の超音波だろうか。

 一方、地竜のほうは難しい顔でずっと押し黙ったままである。それに、心なしか顔色が悪い。

「どうしたんですか? どこか具合でも悪いんですか?」

「…………ない」

「はい?」

「地面がないではないか!」

「いや、そりゃ海ですから……」

「このように広大な水の上で万が一、船が沈みでもしたら……我は泳げぬのだぞ!」

「えー……。レィエルディスさんがパニックになって元の姿に戻らなければ、何とかなりますよ」

「本当か? 本当だな!?」

「大丈夫ですって! 地竜はどうか知りませんけど、人間の体は水に浮きますから」

「ううむ……そうか……」

 また黙り込んでしまった。

 そのままつつがなく航行は続き、一行は何事もなくイリーンベルグの港に辿りついた。


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