三者三様
巨大鎧が爽やかに去って行ったあと、白銀は、今すぐ鍛冶場まで修行しに行く、薬屋にも行く、とのたまう己が主人を担ぎ上げ、無理矢理に宿に連行した。恐らく一晩中寝ていないせいでおかしくなっているのだろうという、彼にしては冷静な判断である。
案の定、ベッドに放り込むとそのまま寝息を立て始めたので、自分はしばらく鍛錬することにする。
「ふむ、鯛子殿はどうするでござるか?」
主人の腰から鯛子の壺を外し、サイドテーブルに置く。ぱしゃん、と跳ねる水音。彼女はこのまま主人のお守をするつもりらしい。
「そうでござるか、では拙者は外で鍛錬してくるでござる。宿でやると後できっと怒られてしまうでござるからな……。鯛子殿に何か土産でも買ってくるでござるよ」
そう言って、白銀は宿を出る。リビングアーマーである彼に睡眠は必要ない。彼はそのまま町を出て、町の外周を素振りマラソンしはじめた。素振りに使用している木剣は、彼の主人がイリーンベルグで買ってくれたものである。
彼は道行く人々の話題を掻っ攫いつつ、主人に良く仕えるため、己を磨くため、鍛錬に励むのであった。
福助は、騒ぎの間もずっと主人のポケットに入っていた。主人があの恐ろしく大きな鎧の前に進み出ていった時はもうお終いかと思ったが、彼の主人はあっという間に巧みな話術で鎧を追い返してしまった。やっぱり自分の主人はすごい、と彼は思う。
森で初めて見かけた主人はとても美味しそうで、ついつい我慢できなくなった彼は森の奥から少し苦手な明るいところへ出てきて、主人が寝ている隙に血をいただいてしまおうとした。しかし、主人は寝ているはずだったというのに咬みついた彼をむんずとつかみ、投げ捨てたのだ。そのあと何回アタックしても投げ飛ばされた彼は、ついに負けを認め、この者を主人とすることに決めたのだった。
その後、主人は彼に毎日のように美味しい血と甘い果物をお腹いっぱい食べさせてくれる。そして優しくなでてくれるのだ。森の外は明るくて眩しいが、ついてきて正解だった。
この前行ったあの薄暗く適度に湿っぽい、としょかんとかいうところにはまた行きたいと思う。あそこには主人が本と呼ぶものが大量に詰まった壁が森の木々のように連なり、かくれんぼしたり昼寝をしたりするのに最適なのだ。鯛子もご機嫌で泳いで、白銀も元気に鍛錬していて、とても楽しいところだった。
それに、あのとしょかんのあるいりーんべるぐというところで食べたイチゴは美味しかった。なにか甘いものが上にかかっていて、福助にとっては幸せな味であった。
食べ物のことを思い出していたらなんだかお腹が空いてきた福助は、主人のかばんをのぞいてみる。果物はあいにく入っていなかった。仕方ない、外は明るくてあまり出たくないが、果物をもらってくるしかない。主人の腰についている袋にある硬くて円いものを持っていくと、美味しい果物と交換できる場所があることを彼は知っていた。
福助は寝ている主人の腰から器用に袋を外す。鯛子が魔法で窓を開けてくれたので、彼は明るい町中へと飛び立った。
白銀が素振りマラソンをしていると、福助が飛んできた。彼は昼間は苦手なはずだが、どうしたのだろう?
「ややっ? 福助殿、その袋は殿の財布ではござらんか?」
「きききっ」
「ふむ、お腹が空いてしまっったでござるか、では、一緒に何か食べ物を買いに行くでござるよ!」
「きいっ」
2人は連れだって町を歩く。確かこの方向にいつもの果物屋があったはずだ。
「おお、いらっしゃい! ……あれ? ヤヒコさんは?」
「殿は今お休みになられているので拙者がかわりに買い物しにきたでござるよ!」
「そっか、すごいな召喚獣、お使いもできるんだな……で、何にする?」
「きー!」
「ふむ、リンゴとバナナを4つづつお願いするでござる!」
「あいよー! 毎度ー!」
首尾よく食べ物を買った2人は宿に戻る。
ぱしゃん、鯛子がひとつ跳ねて出迎えた。
「鯛子殿、リンゴとバナナを買ってきたでござるので、皆で食べるでござるよ!」
「ききっ」
白銀がナイフで果物を切り、3人は仲良く食べ始めた。めいめいリンゴとバナナを1つづつである。残り1つづつは寝ている主人のために残された。
「…………ふわあ……よく寝た……ゲームの中で熟睡とか……あれ、なんだコレ……?」
「おお、おはようございます殿! もうすっかり夜でござるよ! このリンゴとバナナは土産にござる!」
「きー!」
ぱしゃん
「土産……あれ? 財布……ええっ?」




