洞窟に潜むもの④ あかくちいさくまるいもの
「え、え、え、なんですかなんかようですか!」
カツアゲか何かだろうか。
混乱するヤヒコに、その男は言った。
「久しいな」
「へ!? 誰!?」
どこからどう見ても、全く面識のない男である。
「我が棲家で……あの洞窟でこの前会ったであろうが。――この姿では判らぬか? 尤も、ここで元の姿に戻るわけには行かぬが……」
「…………」
困った。洞窟で人間と会った覚えなどない。精々コウモリとワームの死骸と――
「あ! 地……」
「大声を出すな。目立ちたくないのだ」
口を塞がれた。
よくよく見れば、地竜の鱗と髪や革鎧の色が全く同じであるし、首の後ろや手の甲などに同色の鱗がちらほらある。最近の竜や龍の間では人型になるのが流行りなのか。というか、人型になれるくらい力の強い竜だったのか。ますます戦闘にならなくて良かった。
ヤヒコが首を何度か縦に振ると、男は手を外した。
「な、何で町まで出てきたんですか? あそこの洞窟に住んでたんじゃ……」
「……聞きたいことがある」
「何ですか?」
「あの『店』というものはどうすれば良いのだ?」
「は?」
店をどうするとはどういうことなのか。
「あの日、お前は我の棲家を去る時に、赤くて小さく丸いものを置いて行ったろう。あれがまた食べたくなってな。人間の住処に行けば手に入るやもと思ったのだ。人間の住処に入るにはいつもの姿では大きすぎると思い、人間に化けてここまで来て、赤いものを置いてある場所も見つけた。だが、あそこの人間たちは皆何かキラキラしたものと交換で物品を手に入れているらしい。恐らくあれは金だとは思うが、形が統一されている。あんなものを我は持っておらぬ故、どうしたものかと思い悩んでいたところに折良くお前が来たので助かった。それで、あの円いものは何だ」
やっべー俺のせいじゃん、とヤヒコは青くなった。
あの時置いて行ったリンゴの味を覚えて人里まで下りてきてしまったのだ、この竜は。
「えーっと、あの丸い赤いものはリンゴという果物です。円い金はカネとかお金とか呼ばれているものです。人間は、物をお金というものと交換で手に入れるんです、ほら、これですよ」
貨幣を数枚手のひらに出して見せてやる。
「これが『かね』というのものか」
何やら感慨深げに眺めている。お金のことで以前何かあったのだろうか。
「これは許可の出ている決まった場所でまとめて作られているので、勝手に作ったりしてはいけない物なんです。人間は、自分で育てた動植物、山野や海、河川でとれた獲物、作った製品などを持ち寄って、このお金というもの仲立ちとして、自分の欲しい品物を手に入れています」
「……ややこしい言い方をするな。もっと簡単に言え」
「えー……、つまり人間の町というところは、このお金というものと交換しないと欲しいものが手に入らないところなんです。そして、品物によって交換するのに必要なお金の数が違うんです……これで解りました?」
説明って難しい。ヤヒコは痛感した。
竜の間では金銭取引というものがないのだろうか、と思ったところで衝撃の発言が来た。
「うむ、大体解った。つまり、人里に住んでいる者達が言う『しょうばい』の話にでてくる『かね』というのがこれなのだな!」
「………… !?」
人間に紛れている暮らしている竜が複数いるらしい。
何ということだ。最近この町にもちょこちょこNPCが住みつき始めたというが、その中にもそういう人外がいるのかもしれないと思うと、頭が痛くなってくる。
「と、とにかく、あのリンゴが欲しいんですね、俺が買ってきますよ」
「うむ、それはありがたいのだが、恒常的に手に入れる方法というのはないのか? 要するに我が何か人間の必要とする物を持ってきて、『かね』と交換し、それをまたあのリンゴというものと交換すればよいのだろう? あの店とやらには他にも良い匂いのする物が沢山ある。それも我は喰ってみたい。他にも、この人間の里には沢山の店があるようだ。美味そうな肉もある。我が『かね』を手に入れるためには、何を何処へ持っていけばよいのだ?」
「…………」
いい加減、ヤヒコは説明に疲れてきたので――
野生生物に無闇に餌付けした結果がこれです(違




