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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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黒霧の騎士③ 中の人など!

「えええええ!? 召喚士が契約できる!?」

 《始まりの町》防衛線後方支援部隊にて。

 エリンはついこの前知り合った新人召喚士から驚くべき情報を得ていた。

 敵が1体だけだったとはいえ、彼があの化け物を一対一で倒せたというのも驚きだが、彼と彼の友人の召喚士が召喚契約に成功したというのも驚きだ。

 何にせよ、彼らのお蔭で敵の正体が判明したのは大きい。このイベントモンスターは倒すと全体が黒い霧となって文字通り霧散してしまい、中身が何なのかさっぱり判らなかったのだ。リビングアーマーは攻略組ならば幾度かは交戦経験がある相手であり、対策も立てやすい。尤も、魔族領域で現れるものより弱いものの数が多く、黒い霧を纏っているせいで視認しづらく攻撃を当てづらいのが難点である。しかも奴らがまとまればまとまるほど、その周辺が薄暗くなるのだ。

「……貴重な情報をありがとうね。大変だったでしょ。そのお友達と一緒にどこかへ隠れていた方がいいわ。気を付けてね」

 それだけ言うとエリンはチャットを切り、即座にWikiや各掲示板に情報を乗せる。もちろん、召喚契約については検証例はまだ2名分しかないとの但し書きつきで。それでも、少数でも敵側から味方に引き込める可能性があるのは大きいだろう。なにしろ敵はまだまだ大勢残っているのだ。

 書き込みを終え、彼女は仕事を再開した。各前線への物資補給が彼女達の任務である。






「とりあえずお前の名前決めないとな……白銀しろがねでいいか?」

「おおお!殿よりそのような素晴らしい名を頂けるとはっ! 拙者感激でござる!」

 いちいちリアクションが大仰でうざい。

「殿はやめろ。ヤヒコでいい」

「そんな! 殿は殿でござる、呼び捨てなど恐れ多いでござるよ!」

 ヤヒコとしてはせめてさん付け程度にして欲しかったが、白銀の中ではヤヒコはすでに殿で固定されてしまっているようだ。面倒なことである。

「ヤヒコさんはこれからどうします? 私達はまたお化けが攻めて来るといけないので家に戻りますけど」

「俺は……そこら辺をぶらぶらしてみようかなと。1体だけでふらふらしてるやつがいたら倒せるかやってみます。小さな村とかまで防衛の手が回ってないそうなんで。海辺なら少しなら助太刀できるかなと思います。あいつら泳げないし、沈むし、水の中では動きが極端に鈍くなるみたいですんで、危なくなったら適当に海底のほうに逃げます」

「そうですか……気を付けてくださいね。無理しちゃだめですよ?」

 和子たちは去って行った。マックス君は尻尾を振っていた。さよならの挨拶のつもりだろう。ヤヒコは手を振りかえしてやった。


「うむ、弱きを助け強きを挫く! 正に拙者達のなすべき正義でござるな!」

「お前はここで留守番な」

「ええっ!? 何故でござるか!」

「だってお前、泳げないじゃん。どうすんの? 鯛子の背は俺一人で満席だぞ」

「そ、そんな、拙者泳げないなんてことはっ」

「お前さっき海の底に沈んでたじゃねーか」

「そ、その時のことはよく覚えてないでござる……海の底ではっきり目が覚めるまで、なんだか意識がフワフワしていて、何が何やらでござる……」

「やっぱ底に沈んでんじゃねーか!」

「ぐ……ぐぬおおおおお……」

 頭を抱え、浜辺をごろごろ転げまわる白銀。うざったいことこの上なかった。

「だいたい、その鎧が重すぎるんだろ、脱げ!」

「なっなっなんてことを仰るでござるか! リビングアーマーに中の人などいないでござるよ!」

「せいっ」

「ああっ!」

 浜辺でのたうつ白銀の兜をヤヒコが力いっぱい引っ張ると、すぽんっという音をたてて兜が脱げた……が、中には何もなかった。胴の中を覗いても、がらんどうである――リビングアーマーなので当たり前のことなのだが。

「それにしてもどうすっかなーこいつ。船でもないとどこにも連れてけねーぞ……」

 慌てて兜を被りなおす白銀を他所に、ひとりごちるヤヒコ。実際困った問題であった。

 いっそここに拠点でも建てて、こいつに留守番させようか……などと思案するヤヒコの横で、白銀が銀色に淡く光った。

「お前何してんn……ちっちゃ!」

 いつの間にか白銀は手のひらサイズになっていた。胸を張っている。

「ふふん、拙者の秘密奥義のひとつ、《サイズ縮小》でござる! これでどこへでも殿のお供をすることができるでござるな!」

「まじかよ……」

 小さくなっても鬱陶しい白銀に、ヤヒコは溜息をついた。

まあ、沈みますよね、鋼の塊なんてw

小さくなってもそのままの重さっていうのも面白そうだとは思いましたが、

ヤヒコがちょっと可哀想なのでやめました。

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