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闇空のスカイライト  作者: 日明 観影
二章 力は誰が為に
27/34

冷静であること

 三人の人影が村の通りを駆け抜ける。

 闇魔の襲撃にあっている村の畑は、家々が立ち並ぶ一画から離れた場所にある。

 木の柵で囲まれた村の更に北。草原の一画を耕して作ったものだ。


 村の他の住民、特に戦いの心得の無いものたちは万が一に備えて村の中央の広場に退避させているらしい。

 途中、二人の村の屈強な男たちに合流し、アルバたちは村の畑へと急いだ。



 村の仕切り柵を飛び越え、草原へと降り立つ。

 畑があるという場所が視界に入る。何か大きく蠢く影が地面を這っているのが見えた。

 奇妙にユラユラと揺れ、見るからにおぞましい姿をしているのが、遠目にも分かる。


 人ほどの大きさの“草”の闇魔。

 

 左右に二本の大きなトゲの生えた蔦を持ち、足元からは無数の触手がその身体を支えている。顔は無く、頭部には発芽する前の蕾の様な葉の集まりが雫の様な形でピッタリと閉じている。


 幸い、数は二十体ほどで、集団というには少ないように感じるが、人間と同じ大きさの植物の塊が地を這う姿は、恐怖を覚えるには充分過ぎる。


「ちっ! マイルイーターか。厄介だね」


 先頭を走っていたノールがそう呟いた。

 どうやらその正体を知っているらしい。彼女らのように、都市外に住む人間にとっては闇魔との戦闘は避けられないものであるのだから、当然とも言える。

 対して、この中で闇魔と遭遇したことが一度もないアルバにとっては、これが始めての戦闘。


 しかし、怖気付いてはいられない。戦わなければいけない。自分の身を守るために、彼が守りたい人たちの為に。


 アルバは段々と近づいてくるその影に気圧されぬように、腰から短剣を引き抜き、しっかりと手に力を込めて握った。



 既に戦闘は始まっていた。アルバたちとは別の先に来ていた男たちが、植物の波を押し戻すように各々の武器を奮っている。

 しかし、数人の人数で振り払えるほどの数ではないのは一目瞭然だ。地を這う闇魔たちが数体、ゆっくりと村の方へと移動してくるのが見える。

 このままでは、村の方まで被害が及んでしまう。


「あんたたちは後方で村へ向かってる連中を抑えな! あたしと少年たちで親子を助ける! 無事に救出出来たら、畑に火を放つ。 行きな!」


 ノールの号令に男たちがそれぞれの武器を持って散っていく。こちらは全員で十人に満たない。数だけならば倍以上の数がいる。早い決着が望ましい。


 マイルイーターの集団に目を向けるが、囲まれているという親子の姿は見えない。


「くそっ! 姿が見えないね。どこかに倒れてんのかい!」


 同じように親子の姿を探していたノールが口惜しそうに叫んだ。


 もしかしたら逃げる事ができたのか。それとも、捕食されてしまったのか。

 嫌な想像を振り払って、アルバはもう一度しっかりと目を凝らした。


 そして、闇魔の中央にいる、一際大きなマイルイーターの傍に、蔦で覆われ、地に転がっている植物の繭のようなものを見つけて叫ぶ。


「ノールさん、あそこだ! 周囲より大きい闇魔の足元!」 


「っ! でかしたアルバ! 突っ込むよ、覚悟は良いね!」


 その姿を確認してから、ノールは闇魔の群れへと突っ込んで行った。

 一歩遅れて、アルバとマリアもそれに追従し、走っていく。


「邪魔だっ! 退きな!!」


 ノールが一番近い所にいた闇魔に槍を横なぎに振るった。

 彼女の身長よりも大きな槍が空を裂きながら撓い、醜悪な植物の胴の部分に突き刺さった。

 ノールはそのまま力を込めて槍を振り抜き、地面から引きはがすようにマイルイーターを横に弾き飛ばした。

 しかし、奥に控えていた新手が彼女に向けてその蔦を伸ばしてくる。

 刺が無数に着いた二本の触手がノールに迫る。

 両手で槍を振るい、腕を伸ばしきっている彼女にそれを弾く事は出来ない。

 

 彼女は瞬時に握った手を持ち替え、払った槍の穂先を地面に叩きつけた。

 まるで地面をオールで漕ぐかのように、槍のしなりから伝わる推進力に任せ、体勢を低くすることで蔦を回避し、懐に潜り込む。


「はあぁぁぁ!!」


 気合一閃。そのまま柄頭を触手を伸ばした闇魔の腹部に突き当て、その身体を奥にいる闇魔ごと押しのける。

 体勢を崩した闇魔を踏み台に空中に高く舞い上がり、彼女は更に奥の闇魔へと掛かっていった。


(――凄い……!)


 彼が闇魔の下へと辿り着くまでの一瞬で行われた鮮やかな攻防に、アルバは驚く。

 走りが遅くなった彼の横を、マリアがノールに続くように駆け抜けた。


 彼女は、アルバの正面に迫っていたマイルイーターの一体に突撃していく。

 その姿を見たアルバは、無茶だ、と思った。

 彼女は魔法を行使出来るといっても、近距離で戦うための武器などは一切持っていない。

 相手が植物の闇魔だからといって、安易に燃やしてしまえば、突っ込んでいったノールにも被害がいくかもしれないし、下手すれば助けるべき親子も燃やしてしまう。


 闇魔も武器を持っていない少女は障害にすらならないと判断したのか、刺の生えた二本の蔦ではなく、足元の無数の蔦を彼女に対して伸ばしてくる。


 このままでは、捕縛されてしまう。彼がマリアに静止の声を掛けようとした瞬間に、彼女が小さく呟いた。


「『痺れて』」


 マリアの身体から青白い光が一瞬駆けた。

 そして、彼女を捕らえようと触手がマリアの肩に触れた瞬間に、闇魔の身体が不自然に跳ねる。

 痙攣するように植物の身体が小刻みに震え、彼女に触れている箇所から徐々に闇魔の身体に向けて煙が上がって行く。

 マイルイーターの頭部に位置する固く閉じられていた葉っぱが緩み、中から子葉の様な緑色の塊が曝け出された。その部分からは特に大きな煙が吹き出している。

 全身から煙を上げながら、闇魔はその体勢のまま動かなくなってしまう。


 何の策もなしに彼女が突っ込んでいくはずがなかった。彼女も何度も闇魔との戦闘経験がある強者。

 むしろ心配をしなくてはならないのは、戦闘中に他の者に気を取られている自分の方だ。

 自分を叱咤するように、彼は勢いを無くしつつあった自分の足に活を入れて走った。


 アルバは持ち前の集中力を発揮して、ただ自分のすべきことを冷静に判断していく。

 戦闘に集中するというのは、自身の事だけを考えて行動することではない。

 

 視野を広げろ。冷静になれ。


 ノールのように、敵を払い除ける“力”があるわけではない。

 マリアのように、瞬時に発動し敵を巻き込む“魔法”があるわけではない。


 自分にあるのは、“知”だ。


 相手を良く観察しろ、癖を見抜け。考えろ。泥臭くても良い、格好悪くても良い。


 ただ、“冷静”であれ。

 

 アルバは自分の中でゆっくりと思考が流れていることに気がついた。

 実際に時間がゆっくりと流れている訳ではないが、まるで自分の身体と精神が別れたかのような奇妙な感覚。

 いつか夢の中で感じた、自分が二人いるかのような不思議な感覚を改めて実感しつつ、彼は状況を判断した。


 マリアはノールが突っ込んだ場所の外にいる闇魔を相手している。これは、ノールが背後から襲われるのを防ぐためだ。

 ノールは今、三体の闇魔に囲まれて伸ばされた蔦を槍で弾いている。ならば―。


 アルバはマリアの横を通り抜け、ゆっくりと立ち上がろうとしているノールが押し退けた二体の闇魔に向かって走った。

 

 奴らの攻撃方法は、殺傷力のある二本の蔦を鞭のように振るう事と、自身を地に立たせている無数の触手で動きを絡めとる事の二種類。


 人間の様にしっかりとした二本の足で地に立っている訳ではない。

 二本の大きな蔦を支えに立ち上がろうとしている二体の行動は、殺傷能力の無い触手で妨害してくる事だけだ。それに、奥の一体は前の一体に阻まれて動く事は出来ないはず。


 アルバは短剣を握り締め、地面に這い蹲るマイルイーターに飛び掛った。

 

 思った通り、地に倒れている二体は足元から彼を捕縛しようと触手を伸ばしてくる。

 しかし、立ち上がる為にその多くを動員しているようで、向かってきたのは、ほんの数本。

 それを避けながらアルバは短剣の柄を握り締めて唱える。


「『雷を操るは雷精の許しなり。纏え』!」


 短剣の刀身から青白い光が弾け、帯電する。

 そのまま短剣を逆手に持ち替えて、左手で柄を押し込むようにマイルイーターの頭部に突き立てた。

 本当に植物であるかと疑うほどに硬い。木に刃を突き立てたかのような感触に短剣を握っている右手が痺れ、柄を抑える左手が痛むが、確かに刃は刺さった。

 先ほどマリアがやってみせたように、内部に雷を流し込むと、闇魔の身体が小刻みに震え、今度は直ぐに頭部を覆っていた葉が剥がれて、緑色の塊が露出する。

 アルバは短剣を引き抜き、それを切り離した。

 すると、完全に闇魔の身体から力が抜けていき、その身体が急速に枯れていく。


 これが、この闇魔の弱点であるとアルバは確信する。

 

 続けざまに同じように奥に倒れていた一体に止めを刺す。視界の端から大きな蔦が迫ってきているのが見えたが、その後ろには手を翳したマリアの姿。

 

 マリアが雷撃を飛ばし、痺れさせてその動きを止める。内部から植物内の水分を伝って雷撃が走り、露出した弱点をアルバが駆け寄って切り離す。


 アルバはマリアと目配せをして、苦戦しているノールの下へと二人で駆け寄った。

  



 力でマイルイーターを押しのけることは出来ても、致命傷を与えることは出来ない。

 以前、この闇魔が襲撃して来た時は、その足の遅さを利用して、遠くから火矢を放って退けた。

 しかし、今回は状況が違うために安易に火を放つことはできない。

 力に自信はあるが、槍の届かない範囲から彼女の腕ほどもある蔦を六本も振るわれては近づくことも出来ない。

 彼女の背後からは、何やら弾けるような音が聞こえてきていたが、振り返ることもできず、ノールは振るわれる蔦を弾くので精一杯だった。


 この三体さえ越すことが出来れば、奥にいる一際大きな闇魔の下へたどり着くことが出来るというのに。

 焦る気持ちを押さえながら、何とか打開策を見出そうとするノールの後ろから、アルバの声が響いた。

 

「ノールさん! 伏せて!」


 その声に横薙に振るわれた蔦を避けて、ノールは膝を地面に着き、顔を伏せた。

 頭上を何かが迸りながら駆けて行ったのを感じた。

 咄嗟に伏せていた顔を上げると、振るった蔦をダラリと垂らし、痙攣している三体の闇魔の姿があった。


「頭だ! 露出した葉っぱの中の塊を!」


 また背後から少年の声が聞こえる。先程の現象は何なのか。なぜ闇魔が動きを止めているのか。疑問に思うことはあったが、彼女の身体は不思議と思考する前に動いていた。


 まるで、アルバの声に命令されたかのように自然に何をすべきかが理解され、槍が振るわれる。


「おおぉぉぉりゃぁぁぁああ!!」


 数歩で闇魔に肉薄し、足に力を込めて宙に飛び上がって、片手で一息に槍を薙ぐ。

 驚くほどに簡単に穂先が闇魔の頭部を断ち切り、彼女が膝を着いて着地した時には、三体の闇魔はその身体を枯らし始めていた。


「これは……」


 自分で行なったことであるのに、納得の行かないその結果にノールが戸惑っている時に、彼女の下に二人が駆けつけた。


「大丈夫ですか?」


「あっ、ああ。心配ないよ。擦り傷だけだ」


 心配そうに彼女を見つめてくる少年と少女にはまったくと言っていいほど怪我はない。色々と聞きたいことはあったが、今は囚われている親子を助けなくてはいけない。


 ノールは差し出されたアルバの手を取って立ち上がった。


 三人の眼前には、先程までのものよりも一回り大きいマイルイーターの姿。

 地を這っている無数の触手の一部、闇魔の向かって左側の足元が大きく繭のように膨らんでおり、その中に人質である親子が捕らわれているのは明白だ。


 仲間がやられたことを感覚的に悟ったのか、その大きなマイルイーターは身体を不気味に揺らしている。

 瞬間、足元で蠢いていた無数の触手が地に広がり、大地に根ざす様に地面に食い込んで行く。

 その過程で、繭のように包まれていた触手の束が解けていき、翼の生えたリンブルの親子の姿が露になった。

 

 締め付けられて意識を失っているのだろうか。親子はぐったりとして動かない。


 ノールがその姿を見て、助けようと触手の範囲に立ち入ろうとしたが、振るわれた巨大な蔦によって押し返されてしまう。


 その間にも地に食い込んだ触手が不気味に脈を打ちながら広がって行く。

 それに応じて、闇魔の体も大きく成長していっている。


――こいつは、他の奴とは“違う”。


 マイルイーターを中心に、近くの草が枯れていく、土が乾いていく。その影響は、急激な速度でアルバたちの足元にまで広がって来ていた。


「こいつ、大地の栄養を吸い取ってるのか!!」


 ノールが叫んだ時。マイルイーターの頭部から奇妙な乾いた音がした。


 枯れた葉を踏んだ時のような乾いた軽い音。

 マイルイーターの頭部を覆っていた葉がゆっくりと開いていく。完全に葉が開ききると、中にあった緑色の塊が、赤い色に染まっているのが見えた。


 赤い塊は脈を打ってどんどんと膨らんでいく。


――そして、弾けるように“咲いた”。


 “花”と呼べるかは分からない。シワの寄った肉の様な塊が葉脈の様な細い管を不気味に上下させながら開く。

 既にマイルイーターは身の丈四メートルを越えるほどに成長していた。



 これは不味いと考えて、ノールは早々に決着を付けようと闇魔の正面へ真っ直ぐ走り出す。

 自ら弱点を開いたのだから、そこを突かない手はない。右手に槍を持ち、その穂先を開いた弱点に向けて突き出す。


 左右から同時に彼女を押しつぶすように振るわれた蔦の鞭を、彼女の邪魔をさせまいとマリアが瞬時に土の壁を作り出して防ごうとする。


 土壁は一瞬だけ蔦の動きを止めることが出来ただけで崩されてしまう。

 ノールの槍の穂先が弱点であるはずの頭部の花を突く瞬間に、襲いかかった触手がノールを捉えた。


「ぐあっ!!」


 寸前で槍を手から離し、空中で背の翼を一度羽ばたかせて身体の軌道を変えた彼女だったが、完全には避けきれずに、片方の蔦に当たって弾き飛ばされてしまう。

 その拍子に槍は穂先を残して柄の部分を挟み折られてしまった。


 軽く穂先が花を傷つけるが、致命傷には至らない。

 地面に叩きつけられたノールが苦しげに呻きながら何とか身体を起こしているのがアルバたちの視界に入った。

 上手く衝撃を反らすことで、致命傷を避けたようだ。



 その間にも地面はどんどんと枯れる範囲を広めていく。

 マリアは電撃を放つことを考えるが、今電撃を放ってしまえば、闇魔の足元に倒れている親子にも危害を加えてしまうことになる。

 

 どうにかして、あの親子を奴から引き離さなければならない。


 マリアが悩んでいる横で、アルバが大きく一度深呼吸をして、彼女に言い放った。


「マリア。僕があの親子を引き離す。僕の合図で闇魔の頭上から雷を落として欲しい。出来る?」


「……分かった」


 あまりにも危険だ。身体能力の高いノールでさえ近づく間に一撃を食らっている。

 それに、マリアの魔法を使って勢いを殺し、ノールが上手く反らしたから彼女は死なずにすんだ。

 彼がまともに受けてしまえば、一溜りもない。


 それでも、彼がやれると言うから、彼女は止めなかった。

 彼の顔に、少しでも迷いや焦りが見えていたならば、彼女は彼を止めただろうが、アルバの表情は冷静そのものだった。


「――行くよ!」


 アルバが短剣を片手に右側から植物の化物へと向けて駆けた。

 マイルイーターもその姿に気づいて、蔦を振るう。


「何やってんだい!! 止めなアルバ!!」


 膝を着いているノールから静止の言葉が掛かるが、アルバはそのまま走って行く。

 彼に向かって右側から振るわれた蔦が近づく。それをしゃがみこむようにして回避する。時間差で左から蔦が地面を這うように彼へと振るわれるが、それも間一髪で跳ねるようにして避けた。


 マリアはその姿を見つめつつ、イメージを固めていく。彼に言われた通りに、目の前の闇魔に叩き込むための大きな雷を。



 二発の鞭を避けたアルバだったが、彼と親子までの距離はまだ五メートルほどある。

 飛び込めば届くかもしれないが、それでは追撃を食らってしまう可能性がある。

 

 アルバは驚くべきことに、親子の方に向かっていた足を方向転換し、闇魔の正面へと走った。


 そこに彼の左側から返すように蔦が振るわれたのを、地に身体を投げる様に這いつくばって回避する。

 

「ダメだ!! 薙ぎ払われるぞ!!」


 ノールが叫ぶ。アルバは今、地面に完全に身体を着けてしまっている。時間差で返される闇魔の右手の一撃を飛んで回避することは不可能だ。


 それでも、彼は――“冷静”だった。


「これで良いんだ!!」


 アルバが闇魔の頭上に短剣を投げる。そして、相手の足元に落ちていたノールの“折れた槍の柄”を両手で縦に構えて、裏手で振るわれた蔦を受けた。


「アルバぁ!!」


「ぐっ!!」


 何かが折れるような嫌な音が響いた。


 強烈な衝撃を受けて、アルバが吹き飛ばされる。――親子の方に。

 親子のすぐ傍の触手の上にアルバが叩きつけられる。

 

 両手に持っていた槍の柄は、ヒビが入ってはいたが、折れていなかった。

 

 そう、彼女が全力で地面に叩きつけ、大きく体重を掛けても折れなかった弾力性のある柄だ。

 挟まれて折られるならいざ知らず、後ろへと吹き飛ばされながら衝撃を受けたところで、簡単に折れてしまうはずがない。


 痛みを堪えて親子をしっかりと抱き起こし、アルバはローブのポケットからトルクを取り出し叫ぶ。


「『土を操るは土精の許しなり。爆ぜろ』!!」


 彼の背後から大きな爆発が起こり、地に根を張った触手事弾き飛ばしなら、彼の背中に衝撃を走らせる。

 持続こそしなかったが、その勢いは激しく、親子を抱きしめた彼諸共、触手の範囲外まで吹き飛ばした。


 同時に、アルバが宙に投げた短剣がマイルイーターの頭部に突き刺さる。

 足元の爆発と、弱点への攻撃に堪らず暴れ狂う闇魔。



「――今だ!! マリア!!」



「――『落ちろ』!」



 直後に、闇魔の頭上から凄まじい音と共に雷鳴が轟いた。

 眩い光が一瞬の内に空を切り裂き、突き刺さった短剣へと導かれるように吸い込まれ、マイルイーターの内部を駆け巡って焼き切っていく。

 響きわたる轟音。圧倒的な力の余韻が草原を駆け巡っていった。


 眩い光が収まったあとに残されたのは、完全に黒く焼け焦げ、煙を上げるマイルイーターの無残な姿。


 

 腕の中の親子が呼吸をしているのを確認し、アルバは身体をずらして俯せに倒れ込む。


 ズキズキと痛む背中。蔦を受けきった時に勢いを殺せたとはいえ、胸を強打している。もしかしたら肋骨が折れているかもしれない。



(ははは。格好悪いなぁ……)


 

 仲間たちが駆け寄ってくる足音を聞きながら、アルバはゆっくりと意識を失った。

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