全裸
十月二十日、スカイプで再び短編小説を書こうぜという流れになりました。
「キーワードは何にしましょうか」
私「おっぱい!」
三十分で書こうとのことでしたが、案の定間に合いませんでした。
また、オチがあまりにも分かりづらかったので、多少修正しています。
全裸とはどうしてこうも人を惹き付けるのだろうか。生ぬるくなったフローリングの感触を背中に感じながら、ぼりぼりとケツを掻き、言いようも無い感情をかみ締める。これぞ日本人。
乾燥してはがれた皮膚が爪の間に付着したのを確認して、ごろりと寝返りをうつ。大きくも無ければ形も悪いと自負している乳房が圧迫され、ひしゃげた。どうしようもなく枯れている。
「あーあ」
思い切りあくびをすると、日向の香りが鼻腔に流れ込む。外出時は氷河期に突入してしまえと太陽を呪うが、刺し殺されそうな日差しも縁側で浴びると不思議と違った印象になる。まあ、すだれがかかっているからだろうが。
その細かい目の間からは、真夏の風物詩、セミの鳴き声が侵入してきている。私の家は今時珍しい平屋で、木に近い。もちろんわずらわしい虫の声にも。
近くに転がっていたビール缶に、小さなハエが近寄ってきた。おお、そういやこの匂いには寄ってくるんだった。ハエは寄る、ヒトは酔う。なんだか響きが似ている。
つまり、ヒトもハエも似た様な存在なのだ。苦笑して、一人で飲むのには多すぎる空き缶を眺める。
一人で飲むのには多すぎる。まあ、これは問題ない。何しろ飲んでいたときは一人ではなかったのだ。同僚の赤い顔を思い出しながら、舌打ちをひとつ落とす。あの野郎、逃げやがった。どうせすぐに会社で顔を合わすことになるのに。
全身が痛い。頭も腰もだ。それにもかかわらず、昨晩の記憶は恨めしいほどに鮮明だ。金曜日の夜。アルコールの失敗は恐ろしいと、調子に乗って飲みすぎてはいけないと散々先人たちに忠告されていたというのに。
耳障りな羽音に目線をあげる。枕代わりにしていた腕に、蚊が止まっていた。そういや、お前も居たか。夏の風物詩。
ゆっくりと膨らんでいく赤い腹を、何をするわけでもなく見つめる。ただでさえ炎症を起こしまくっているこの体に、さらに腫れ物を作るか、お前は。
のろのろと手を上げて、パシンと腕を叩く。手のひらをのぞくと、ひしゃげた害虫が血を流していた。昨日もこうやって手を上げてしまえばよかった。みっともなく涙を流すだけではなく、大声でも上げればよかったのだ。
だけど、実際には恐怖に張り付いた喉から出たのは、悲鳴ではなかった。ヒュウヒュウと息が漏れるだけで、衣服を剥ぐ手を制止できなかった。茹だるような熱帯夜の中、ただ季節外れな鳥肌をたてた。
この血は、私の血。枯れているはずの私から吸い出された血液。縞々模様の足をもぎ取り、空き缶のプルトップになすりつける。
庭に目を向けると、木のうちの一本にセミが貼りつき、必死に樹液をすすっている。あの木は枯れている。私と同じ。
それでも、やつらは体液を吸い尽くすのだ。木は動けない。
私も動けない。全裸のままで、フローリングと同化している。