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電車の恋

作者: 尚文産商堂

「あ…」

「よう、一緒の電車だったのか」

同じ高校の同じ教室で、すぐ横にすわっている男子が、私に話しかけてくる。

彼は、私が立っている扉のところへ2歩で近づくと、聞いてきた。

「どこまでだ?」

「宝塚まで」

私が言うと、ちょっと残念そうに彼が答えた。

「そっか、俺は川西池田までだよ」

それから、なんとなく彼と話をしていた。


列車が斜面を走り始め、それからすぐに、地下から一気に地上に出る。

放送が、ちょっと遠くから聞こえてきた。

「まもなく尼崎です。神戸線、京都線はお乗り換えです。この電車は、快速新三田行きです……」

「もう尼か。早いな」

京橋から乗り込み、そこから尼崎で宝塚線に入り、宝塚まで行く。

いつも同じことを繰り返していたけど、今日は違った。

彼がいるのが、一番違うところだが、それともう一つ起こった。


尼崎駅で乗客が降り、そして反対側に来た神戸方面の快速と接続をし、私たちは発車を待った。

しかし、いつもなら出る時間でも一向に扉は閉まらない。

「どうしたんだろうな」

「さあ」

私は、携帯で情報を集めようと思い、ネットに接続した。

それと同時に、車内放送がかかる。

「ただいま伊丹駅付近におきまして、踏切の無謀横断がありました。現在、安全を確認しております。確認され次第、運転を再開いたします……」

「あー、またか」

彼が残念そうに車壁にもたれかかる。

「しかたないよ。週に1回ぐらいは起きてるし」

「ったく、こっちは家でゆっくりしたいと思ってるというのに。誰だよ、無謀横断なんかした奴は」

「私じゃないよ」

「そりゃ分ってるよ。目の前にいるしな」

そう言って見つめてくる彼に、なぜかドキドキした。


列車が動き出したのは放送から10分後だった。

「次は、伊丹です。伊丹の次は川西池田に止まります」

車内放送は変わりなかった。

タタン、タタンを単調な調子で線路をまっすぐに進む。

「もうちょっとだけ、一緒にいれるね」

「そうだな」

伊丹から川西池田までは、約5分。

わずかだけど、彼と一緒にいれる時間が、とてもうれしかった。


でも、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎる。

「まもなく、川西池田、川西池田です。次は中山寺です。阪急電鉄はお乗り換えです」

「おっと、もうそろそろ行かないと」

彼はそう言って、カバンを肩に下げて開く扉へ向かう。

「ねえ」

私は彼に聞いた。

「また会えるよね」

「当たり前だろ。じゃあな、また学校で」

彼はそう言って電車を降りた。

私は、ガタンタン、ガタンタンとリズムを刻んで彼から遠ざかっている電車に乗りながら、また明日も彼に会えることを楽しみにした。

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