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残春はさ迷える子羊達のコンチェルト  作者: Mr.M
第1楽章 アイデンティティー

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第7話 自己紹介

「ちょっと!

 どこに行ってたのよ。

 全員が集まるまで

 ここで待つように言われたでしょ?」

娼婦が死神を責め立てた。

死神は

「くっくっく」

と鼻で笑うと、

「1階を探索してきたんだよ」

と面倒くさそうに答えて、

柱時計の横の壁に

背を持もたせかけた。

それから。

死神は僕の方を見て、

にやりと口元を歪めた。


「忙しい中、

 わざわざスケジュールを空けたのに、

 いつまで待たせるのかねぇ」

ソファに背を預けて

腕を組んでいた魔女が

不満げに呟いたが、

その声は掠れていて

やや聞き取り難かった。

「あ、あの・・。

 まだお1人、

 お見えになっていませんが、

 改めて、

 自己紹介をしませんか?」

その時。

車椅子の堕天使が控えめに提案した。

少女の発言に

異を唱える者はいなかった。


応接室の柱時計が

コツコツコツと時を刻んでいた。


「・・では言い出した私から

 お話しさせていただきます」

美しき堕天使がふたたび口を開いた。

「私は佐藤千雪(さとう ちゆき)

 と申します。

 『私立傾城学園』の2年生です。

 今日は母の茜(あかね)の代理で

 参加させていただきました」

少女が頭を下げると、

老いてなお盛んな老豚が、

「ほぅ。

 ということは17歳か」

と感嘆の溜息を漏らした。

「ご覧の通り。

 足が不自由で、

 こうして車椅子の

 お世話になっています。

 ですが。

 今はインターネットの世界で

 自由に歩き回ることができるので、

 それほど不自由に感じていません」

そう言うと、

少女は口に手を当てて

「ふふふ」

と上品に笑った。

同時に。

魔女が

「きゃきゃきゃ」

と掠れた声で笑った。


「儂は

 宮崎清一(みやざき せいいち)

 今年で72だ。

 こう見えても。

 昔は優秀な医者でな。

 今は引退して、

 悠々自適に暮らしておる。

 趣味は車で、

 ベンツとフェラーリとポルシェを

 1台ずつ所有しとる。

 わっはっは」

濁声の老豚が豪快に笑うと、

隣の娼婦が目を輝かせた。


「じゃ。

 次はアタシの番ね。

 名前は菅野あかり(かんの あかり)

 25歳。

 見た目はこんな風だけど、

 仕事はいたって真面目だから、

 誤解しないでよ。

 ついでに言うと。

 彼氏はいないわ。

 うふふ」

そう言って、

娼婦は老豚の肩にそっと手を置いた。

老豚はゴホンと軽く咳払いをして、

顔をしかめた。

社会的に地位のある者の矜持が、

彼にそんな態度を

取らせているのかもしれない。

僕はそう邪推した。

それよりも。

娼婦が僕と同い年であることに驚いた。

人は見かけによらないというのは、

若干ニュアンスが違うか。


「わ、わたしは・・。

 六条美和(ろくじょう みわ)

 と申します。

 しゅ、主婦です・・」

部屋の奥で立っていた未亡人が

静かに口を開いた。

しばらく待っても、

彼女の口からそれ以上のことが

語られることはなかった。

これは本当に未亡人かもしれないと

僕は密かに思った。


「あたしも自己紹介をするのかい?」

ソファに座っていた魔女が

気怠そうに口を開いた。

「婆さんに興味はねーけど、

 せめて名前くらい名乗ってくれよ」

その時。

やや甲高い声が部屋に響いた。

それは。

柱時計の横に立っている

死神の声だった。

魔女は顔を引きつらせながら

死神を睨み付けた。

「平原由紀(ひらはら ゆき)

 だよ。

 これで文句はないだろうよ!」

死神はこくりと頷くと、

「俺は

 西岡真(にしおか まこと)

 歳は21。

 フリーターだ」

とポケットから

パスポートを取り出して皆へ見せた。

なぜパスポートを持っているのか、

という疑問が頭に浮かんだが、

免許証を持っていない

人間にとっては、

ある意味、

身分証明書になるのかもしれない。

ぼんやりとそんなことを考えていると、

皆の視線が僕に注がれていた。

僕は慌てて口を開いた。

「・・え、えっと。

 す、鈴木太です。

 歳は・・25です。

 えっと・・。

 今は失業中です・・」

最後は小声になった。

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