第39話 発狂
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「やはり貴様が【犯人】か!」
宮崎の濁声が静寂を破った。
六条は激しく首を振ると、
俯いてシクシクと泣き出した。
「これだから女っていう生き物は
嫌いなんだ!
泣けば許されるとでも
思ってるのかっ!」
六条の涙は、
宮崎の怒りを鎮めるどころか、
火に油を注いだだけだった。
「・・そ」
その時。
六条の口から小さな音が漏れた。
「あぁん?
何だ?」
宮崎が六条を睨み付けた。
「・・そが」
ふたたび六条の口が微かに動いた。
「だから!
はっきり声を出せ!
聞こえんだろうが!」
間髪を入れず、
宮崎の怒号が響き渡った。
「・・くそが。
・・くそがぁぁぁ!
この糞爺ぃぃぃ!
わぁぁたぁぁしぃぃはぁぁ!
知らないって!
言ってるだろうがぁぁぁ!」
突然。
六条が発狂した。
彼女は両手で髪をかき乱すと、
「キィィィィィ!
シャアアァァァァァ!」
と奇声を発した。
彼女の突然の変貌に、
2人のやり取りを見ていた僕と佐藤、
そして西岡と菅野も呆気に取られ、
ただ立ち竦んでいた。
「・・き、貴様!
開き直るつもりかっ!」
宮崎は一瞬、
怯んだものの、
すぐに体勢を立て直して
怒鳴り返した。
「もぉぉぉうぅぅぅ!
何なのよぉぉっ!
どうしてぇぇぇ!
わたしがぁぁぁ!
責められないとぉぉぉ!
いけないのよぉぉぉ!」
そう叫ぶや否や。
六条はビリヤード台へと駆けていき、
キッチンバサミを手に取った。
そして。
それを体の正面に突き出した。
一瞬で、
部屋に緊張が走った。
皆が息を呑み、
六条の手の中の凶器を見つめていた。
彼女の血走った目には、
狂気の色が浮かんでいた。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
ふいに。
西岡が一歩前に出た。
「う、動かないでぇぇぇ!」
六条がキッチンバサミを西岡に向けた。
しかし。
西岡は足を止めることなく、
六条の方へ
ゆっくりと近づいていった。
「そ、それ以上こっちへ来たら・・!
さ、刺しますよぉぉぉ!」
次の瞬間。
西岡が駆け出した。
「来ないでぇぇっ!」
六条がキッチンバサミを振り上げた。
西岡は六条の前で
左右に素早くステップを踏むと、
身を左へ沈め、
右足で六条の左脹脛を
強烈に蹴り飛ばした。
「ああっっっ」
六条の体が左へ大きく揺れ、
彼女の口から悲鳴が洩れた。
その隙を逃さず、
西岡はくるりと体を捻ると、
後ろ回し蹴りを
六条の左側頭部に叩き込んだ。
ドスンッ
という音と共に、
六条はその場に崩れ落ちた。
そして。
キッチンバサミが床に転がった。
まさに。
一瞬の出来事だった。




